2016年10月19日水曜日

「五日物語」(ネタバレ大有り)

このところシネコンで見た映画の話ばかりで、しかも日本映画の方が多いという、私らしからぬ現状でしたが、実際は試写もぼちぼち見てはいたのです。
が、大学の授業始まると試写に行ける日が限られてしまい、そうなると、目の前にあるあまり多いとは言えない試写状をにらみながらスケジュールと相談し、結局、有名監督の映画を優先して見てしまう。が、その有名監督、ヴィム・ヴェンダースとかテレンス・マリックとかペドロ・アルモドバルとかの新作がどうもつまらない。もはや昔の名前になってしまったのか、と、ここで紹介する気にもなれなかったのです。
が、ようやく、ここで紹介したい試写を見ました。
イタリアの鬼才マッテオ・ガローネ監督の「五日物語ー3つの王国と3人の女ー」。
原作は17世紀はじめに書かれた世界初の民話集「ペンタメローネ 五日物語」。市立図書館に翻訳あったけど貸出中だったので予約入れときました。
映画は原作の中の話をいくつか拾って、それを独自の物語に変えたもののようで、宣伝文句には「女の性(サガ)」とあるけれど、私にはむしろ、家族への執着が大きなテーマのように思えます。
それをこれから解説していくので、当然、ネタバレありになります。
映画は東京国際映画祭で上映されたあと、11月下旬からロードショーの予定。
というわけで、ネタバレOKの方のみ、どうぞ。

映画は3つの王国の物語が交互に登場し、3つの物語の登場人物が同時に登場するシーンもあります。
ロングトレリス国の王妃は不妊に悩み、夫である国王は自分の命を犠牲にして怪獣を殺し、その心臓を王妃が食べると、王妃は懐妊。また、心臓を調理した下女も同じく懐妊し、双子のような男の子が2人生まれます。
2人の男の子、エリアス王子とジョナ(どちらも聖書に出てくる名前?)は兄弟のように仲良くなり、いつも一緒にいるので、それが気に入らない王妃はジョナと母親を追放にしてしまう。
ハイヒルズ国の王は自分が育て、巨大化したノミを溺愛し、娘である王女を愛さない。不満を募らせる王女を、しかし嫁がせる気もない王は、難問を解いた男と娘を結婚させると言う。が、鬼が難問を解いてしまい、王女は岩山に住む鬼のところへ連れ去られる。
歌声の美しい老婆を若い女性と勘違いしたストロングクリフ国の王は彼女に言い寄る。妹と暮らす老婆は若く見せかけて王のもとへ行くが、バレてしまい、森に突き落とされる。ところがそこで老婆は若さと美貌を手に入れ、王と結婚。それを知った老いた妹は自分も若くなりたいと思う。

以下、ネタバレ大有りなので、注意してください。

とまあ、この3つの話が交互に出てくるのですが、最初の話では王妃が息子に執着している。息子エリアスが双子のようなジョナと仲良くなるのが耐えられない。そこでジョナを追放したが、エリアスはジョナが危機に陥っているのを察し、助けに行く。行った先で、ジョナには恋人ができているのがわかる。怪獣に襲われているジョナをエリアスは救うが、怪獣の正体は実は母である王妃だった。エリアスは怪獣=母を倒すが、ジョナは今では恋人が一番大事な人で、2人はもう双子の兄弟としてぴったりと寄り添うことはできなくなっている。エリアスは母だけでなくジョナも卒業することになる。
2番目の話では、王女は父親に愛されていないのが不満で、すてきな男性と結婚して外へ出たいと思っていたが、鬼と暮らすことになってしまう。彼女は曲芸師の一家に救われるが、一家は追いかけてきた鬼に皆殺しにされてしまう。この善意の曲芸師一家が皆殺しにされるシーンは残酷だが、この映画は一貫して家族の執着を批判的に眺め、家族からの旅立ち、独立を肯定しているように見える。なので、曲芸師一家が全滅することも、このテーマに沿ったことなのかもしれない。そして鬼を退治した王女は国に帰り、病にかかった父親を非難し、そして堂々たる女王になる。エリアスが母を倒したように、ここでは王女が父を否定し、父を超えるのだ。
3番目の話では、老いた妹の姉への執着が描かれる。姉の老婆を若い女性と勘違いした王が姉妹の家を訪ねたとき、妹は本当のことを言おうとするが、姉はそれを制し、若い女のふりをする。森の中で若さと美貌を手に入れた姉は王と結婚。老婆のままの妹は姉に執着し、一緒に城に住みたがる。だが、若い美女である姉は老婆の妹をそばに置きたくない。城を追い出された妹は若さを求めて自ら残酷な処置を求めていく。
この第3話では、妹は若く美しくなった姉に嫉妬しているというよりは、姉のもとにいたくて自分も若さを求めているように見える。王が訪ねてきたとき、姉は新しい世界に出たがっているが、妹はこれまでと同じく姉と暮らしたいと思っているように見える。その後の展開でも妹の姉に対する執着、年に似合わない姉への甘えのようなものが感じられる。前の2つの話と違って、妹は姉を超えていくことはない。それゆえに結末は悲惨だ。
と、こんな具合に、家族への執着とそこからの脱出がテーマだな、ということがわかる映画なのです。
巨大化したノミや怪獣が出てきますが、日米の映画の怪獣と比べると非常にプリミティヴな姿で、ちょっとちゃちいなと思うくらいですが、全体にヨーロッパのおとぎ話的な映像なので、これはこれでよいかな、と。雰囲気としてはテリー・ギリアムの「ブラザース・グリム」に似ています。イタリアの古城や秘境めいた場所がロケに使われているのも見もの。出演は3人の王がジョン・C・ライリー、トビー・ジョーンズ、ヴァンサン・カッセル。王妃がサルマ・ハエック。そして、元老婆の若い美女が「ニンフォマニアック」のステイシー・マーティンでした。