2013年2月7日木曜日

ベラミ 愛を弄ぶ男

火曜日の気温から見て、水曜は雪にはならないな、と思いましたが、案の定、雪は降ってたけど、地面に落ちるとみな溶けてしまっていました。
JRは大雪予報に応えて間引き運転を決めてしまった上、人身事故もあって、午前中は大混乱の駅もあったようです。
さて、私はどうしても行きたい試写、モーパッサン原作の映画「ベラミ 愛を弄ぶ男」を見てきましたよ。
試写のあとはプールへ行こうと思っていたのですが、今日は朝から胃腸の具合が悪く、映画は見られましたが、体調不良を感じてプールは中止。

「ベラミ」ですが、原作の内容はまったく知らなかったのだけれど、帰って検索で調べてみたら、映画はわりと原作どおりみたいです。
「トワイライト」シリーズで人気のロバート・パティンソン演じるジョルジュ、あだ名はベラミ(美貌の友)は、その美貌で次々と上流の夫人たちを手玉に取り、上流社会でのし上がっていく、という物語。時は19世紀末のパリで、アルジェリア戦争やモロッコ動乱が背景になっています。
貧しい生まれのジョルジュは、アルジェリア戦争の戦友と偶然会い、彼の手引きで上流階級の夫人たちに出会い、新聞社に仕事も見つけ、あとは上流社会の男たちを裏で操れる夫人たちに取り入り、彼女たちを裏切って、出世していくという話。いわゆる伝統的なピカレスクで、おもに18世紀にヨーロッパで流行していたジャンルですが、伝統的なピカレスクでは、美貌と手練手管でのしあがった主人公は最後には没落するということになっていました。が、この「ベラミ」は、ジョルジュはのしあがるだけのしあがって、さらに上を目指すという、全然没落しそうにないのです。原作もそうらしい。モーパッサンといえば、意外な結末の短編で有名ですが、この「ベラミ」は、悪いやつがのしあがったまま、というのが意外といえば意外。でも、後味は悪い。
しかも、昔のピカレスクでは、悪の主人公は美貌だけでなく才覚もあったのですが、このベラミは美貌だけ。新聞社に入って記事を書く仕事を得たのに、文章は下手、ほかに何ができるかっていうと、有力者の妻を誘惑するくらい。妻たちも、彼に何を求めてるかっというと、やっぱりセックス。彼の方は女たちを全然愛してなくて、ただ利用しているだけ。一方、女たちは愛されていると勘違いするけど、でもやっぱり欲しいのはセックスだろう、ていう感じです。なんだかんだいっても、夫はキープだし。
3人の女性を演じるのは、ユマ・サーマン、クリスティン・スコット・トーマス、クリスティーナ・リッチと、豪華メンバーです。サーマンが演じるのはジョルジュの戦友の妻で、途中で夫が死んでジョルジュと結婚しますが、彼女が本当に愛しているのはジョルジュじゃないというのがまた意外。トーマスが演じるのは新聞社社長の妻で、こちらはもう、年をとってから急に若い男に熱中してしまったマダムの哀しさ全開です。3人の中では私はリッチが一番気に入りましたが、彼女は夫が留守がちなのでジョルジュといい仲になるという関係で、2人の女性ほどには権力がない感じなのですが、その分、どこかジョルジュとの関係に対して冷めた部分も持っていそうです。サーマンとトーマスの演じる女性がかなり計算高いところがあるのに対し、リッチの演じる女性はまだモラルがある感じ。ジョルジュは最後は、さらに出世するために、世間知らずの若い令嬢とはじめから愛のない結婚をするのですが、それを批判的に見つめるリッチのまなざしが印象的です。
ジャーナリズムを利用して政界に進出したり、金儲けしたりする上流の男たち、それを陰で操る女たち、その女たちを利用して上流社会に殴り込みをかける貧しい若者、という構図ですが、先に書いたように、伝統的なピカレスクに比べて主人公がうつろなこと、そのうつろな男がのしあがっていく社会がまたうつろであること、そういったうつろさが19世紀末なのかな、と思いました。
原作の翻訳は岩波文庫から出ていたけど、絶版なのね。映画にあわせて、角川文庫から新訳が出るようです。