2014年7月9日水曜日

トム・アット・ザ・ファーム

「わたしはロランス」に続くグザヴィエ・ドランの映画「トム・アット・ザ・ファーム」を見た。
ドランとしては初の原作つき映画。原作はカナダの劇作家ミシェル・マルク・ブシャールの劇だが、演劇の映画化とは思えないほど映画的にこなれている。
ドランなので、当然、ゲイがテーマ。主人公トムはゲイの恋人ギョームの葬式に出席するため、彼の母と兄が住むケベック州の田舎の農場へ行く。そこでトムは、兄のフランシスから、ギョームがゲイであることは母親には秘密で、女性の恋人がいたことになっている、だから口裏を合わせろ、と要求してくる。とまどうトムにフランシスは暴力をふるって従わせる。
この暴力がしだいにエスカレートしていって、トムはだんだんフランシスの暴力が快感になっていき、トムとフランシスの奇妙な関係が生まれていく。
農場の周辺の人々は農場を避けている。それは、かつて、フランシスがバーで事件を起こしたからで、ある種の村八分になっているのだ。
フランシスはいわゆるホモフォビア=同性愛嫌悪者なのだが、単にそれだけとは思えない。むしろフランシスは弟に対してホモセクシュアルな感情を抱いていたのではないか、それで、弟の恋人のトムを弟のかわりにしようとしているのではないか、と思えてくる。トムもまた、フランシスと離れがたくなっていく。
原作にはもっといろいろな要素があったらしいのだが、映画はトムとフランシスの関係に絞って描いている。クライマックスと結末については謎がいくつも残る感じになっているが、ケベックの田舎から大都会モントリオールに戻ってくるあたりの映像が不思議な余韻を残す。
フランシスの着ている星条旗とUSAの文字の入ったジャケットは何を意味するのだろう。そして、冒頭の曲はミシェル・ルグランの「華麗なる賭け」のテーマ曲を少しアレンジして、フランス語で歌っているものだが、この歌で始まり、アメリカはもうたくさん、みたいな歌で終わる。
トムはドラン自身が演じているが、髪を金髪に染め、役者としても一皮むけた感じがする。共演者たちもいい。


グザヴィエ・ドランは最近お気に入りの監督で、「わたしはロランス」も高く評価したのだが、キネ旬のベストテンを見たらあまり点が入っていないので驚いた。社会批判とかがないからか? 若い監督が気取っているだけ、みたいな意見もあったらしい。
ドランの映画を見ると、デビュー当時のフランソワ・オゾンを連想するのだけど、現在のオゾンのようにはならないと思う。


「華麗なる賭け」のテーマ曲、英語と日本語の歌詞がここにありました。
http://udzu.blog123.fc2.com/blog-entry-87.html
フランス語の歌詞と日本語訳もあった。便利な世の中だ。
http://lapineagile.blog.fc2.com/blog-entry-324.html