2015年5月30日土曜日

久々「バリー・リンドン」講義

今年は某大学の英米文学の講義で久々にサッカレーの「バリー・リンドン」をやった。
この講義、始めたばかりの頃はアーサー王伝説、シェイクスピアに続いてイギリス小説は「フランケンシュタイン」、「バリー・リンドン」、「ダーバヴィル家のテス」、「インドへの道」と、私の得意な作品ばかり取り上げていたのだが、どうも「バリー・リンドン」が受けない。そこで同じ時代のディケンズの「クリスマス・キャロル」にかえてみたりしたが、どうもイマイチ。「嵐が丘」や「ジェイン・エア」は別の授業でやってるらしかったので、しゃあない、ヴィクトリア朝前期は作品抜きで概説だけにしようか、そのかわり、オースティンの「高慢と偏見」を入れよう、ってわけで、「高慢と偏見」、「フランケンシュタイン」、「ダーバヴィル家のテス」、「インドへの道」とラインナップがかわっていったのだった。
で、この路線が定着したか、と思ったところに来て、今年2月のNHKの100分で名著に「フランケンシュタイン」が登場。安いムック本も出てしまって、こういうのが出ると、学生は自分の頭で考えずにムック本そのまま試験の答えに書くようになるのですね。
これまでは「フランケンシュタイン」を取り上げると、寝ていた学生がみんな起き出して真剣に聞き入るという、講師冥利に尽きる展開で、学生の反応も各自が自分の頭と心で感じたことや考えたことを書いてくれていたので、やりがいがあったのだが、テレビで取り上げられてムック本が出てしまうとこういう展開でなくなる可能性が非常に高くなるのだ。
そこで、今年は「フランケンシュタイン」をやめて、「高慢と偏見」の次に「バリー・リンドン」を入れようと考えた。そして、これがけっこうよかったように思えたのだ。
その理由を考えてみると、以前は「バリー・リンドン」はヴィクトリア朝前期の作家と作品を紹介したあと、駆け足であらすじを説明するくらいだったが、今回は時間をかけてじっくり作品の世界を紹介したということ。そして、オースティンの「高慢と偏見」のすぐあとだったのがよかったのだと思う。
「高慢と偏見」と「バリー・リンドン」はイギリスの階級や結婚観などの点で共通点が多い。「高慢と偏見」が女性の世界なら、「バリー・リンドン」は同じ世界を男性側から見たもの。だから、「高慢と偏見」ではこうだったけれど、というような説明が可能になったのだ。
要するに、「フランケンシュタイン」の次に「バリー・リンドン」ではだめだけど、「高慢と偏見」の次ならよいということだろう。
確かにオースティンとサッカレーはイギリス中産階級を皮肉とユーモアで描くという共通点がある。だが、「フランケンシュタイン」はフィールディング、オースティン、サッカレーといったイギリスのリアリズム小説の流れからははずれた作品なので、流れとして別の世界になっているのだ。「フランケンシュタイン」は18世紀のゴシック小説、ヴィクトリア朝前期のブロンテ姉妹などと一緒にやった方がいいのだろう。
「フランケンシュタイン」は来年くらいになればテレビのことは忘れられるからまたやってもいいかな、と思うのだが、来年ではまだ早いかもしれない。それに、やるとしたらイギリス小説のあとのアメリカ小説のさらにあと、SFとファンタジーでやった方がいいのだろうと思う。