2015年7月18日土曜日

総括

というほどでもないんだけど、某大学での英米映画に見る太平洋戦争と戦後の授業が終わり、試験も済んだので、ある種の総括をしたいと思う。
この授業、以前にも書いたように、初回授業に60人もの学生が来たが、その内40人が抽選で落とされ、初回に来なかった20人が当選するという事態になり、受講生のボルテージが2回目以降、大きく下がってしまった。
初回では旧作「日本のいちばん長い日」のさわりを見せたところ、学生から、日本史の教科書にはポツダム宣言受諾としか書いていない、ただ終戦としか書いていなかった、でも、ポツダム宣言から玉音放送までの間にこんな大変なことがあったと初めて知った、もっと日本の歴史を勉強したい、という声が多数寄せられた。授業終了後にわざわざ教師のところへ来て、自分の祖父は赤紙が来る直前に玉音放送があって命が助かった、終戦が遅れたら自分は生まれていなかったかもしれない、と話してくれた。
初回に来て抽選で落とされた学生たちがみな来てくれていたら、と思わずにはいられないが、当選した学生にも熱意のある学生はいた。ただ、あまり熱心でない学生も少なくなかったし、戦争についての反応も首を傾げるものがいくつもあった。
扱ったのは真珠湾攻撃前後の米軍基地を舞台にした「地上より永遠に」、日本軍捕虜収容所が舞台の「戦場にかける橋」、アメリカ人監督が描く日本軍の戦い「硫黄島からの手紙」。そして後半は戦後のマッカーシズムを描いた「追憶」と「マジェスティック」で、この2本は昨年度までと同じメニュー。昨年度は映画やテレビの世界と社会問題がテーマで、「チャイナ・シンドローム」や「インサイダー」、「ネットワーク」なども取り上げていた。太平洋戦争を描く3本の英米映画は今回初めて取り上げた作品。
意外だったのは、「地上より永遠に」が大学生にも人気があったことだった。これは大人の映画なので、若い人にはあまり共感されないと思っていたのだが、演技派スターたちの演じる主要人物がどれも個性的で、感情移入しやすかったようだ。いじめの問題も学生には身近な問題と感じられたのかもしれない。また、後半、米兵同士が殺し合いになる展開に戦争への批判や皮肉を感じ取ってもらえたようだ。
一方、学生には理解がむずかしかったのは「戦場にかける橋」。日本でも人気が高い映画なので意外だったが、アレック・ギネス演じる大佐が橋爆破に来たウィリアム・ホールデンを見て、「自分は何をしたのか」と思い、そのあと銃撃されて爆破のスイッチの上に倒れ、橋が爆破されるクライマックスを、大佐は最後に軍人としての自覚に目覚め、意図的にスイッチの上に倒れて橋を爆破したという意見が多かったのには驚いた。これでは最後に軍医が「マッドネス(狂っている)」と叫ぶ意味がわからないだろうと思うので、そのあたり、説明はしたが、学生にはこの辺が理解できないらしい。最後にイギリス軍人としての使命に目覚めたとする解釈の方が彼らには受け入れやすいらしいのだ。
続く「硫黄島からの手紙」でもこの傾向は目立った。この映画では当時の日本人が本音を言えず、「生きて帰る」と言うことも許されず、国のために死ぬという洗脳を受けていたこと、若い兵士、西郷だけはそれに反発していたことが描かれているが、学生にとっては、硫黄島の日本軍兵士が国を守るために戦い、命を落としたというヒロイズムの方が受け入れやすいらしい。確かに「硫黄島からの手紙」には、国のために命を落とした兵士たちへの鎮魂があり、そのこと自体は間違いではないのだが、それだけではない。上に書いたような当時の日本の現実が描かれているし、また、生きたいと思った兵士が死に、自爆しようとした兵士が生き残るといった皮肉もある。
全体に学生はやはり皮肉に対する理解度が低く、「戦場にかける橋」への無理解もそこから出ているのだが、「地上より永遠に」のような描写だと理解できるというのも面白い。この3作の中では「地上より永遠に」が一番悲しみの感情を表現しているからだろう。
「追憶」と「マジェスティック」はどちらも、アメリカは第二次世界大戦は自由と民主主義を守るために戦ったのに、戦後はマッカーシズムとなり、自由と民主主義を自ら踏みにじったと主張する映画だ。当時のアメリカは米ソ冷戦という戦争の状態だったので、言論の自由や思想の自由が抑圧されたが、これを「硫黄島からの手紙」の日本の中の抑圧と比較する学生が少数ながらいた。また、「マジェスティック」のクライマックスで「憲法を守れ」と演説するところで、憲法について注目する学生もいた。ただ、こうした見方をする学生はごく一部で、大半は正直、レベルが低かったし、所詮は映画の中の世界、他人事なのかという思いも抱いた。軍人としての使命にめざめるとか、国のために戦い死ぬとか、そういう物語の世界のかっこよさに目が行くとしたら、戦争映画を通じて戦争について考えるのはむずかしいのだと思わざるを得ない。
また、学生も、大学の授業の中であるので、意見を抑制している面もあるのかもしれない。
いろいろと考えさせられた。