2017年2月24日金曜日

「ブライトン・ロック」(ネタバレあり)

「マリアンヌ」でブラッド・ピットが読んでいた小説、グレアム・グリーンの「ブライトン・ロック」を読んだ。(ネタバレありなので注意)
「マリアンヌ」を見る前に近くの図書館でグレアム・グリーン全集があるのを見つけ、数十年ぶりにグリーンを数冊借りて読んだのだけど、そのきっかけはスコセッシの「沈黙」を見たから。
遠藤周作のようにカトリックの神の存在にこだわる外国の作家といえばグレアム・グリーン、というのが頭にあったからだ(代表作「権力と栄光」はまさにそれ)。
で、「マリアンヌ」を見てから今度は「ブライトン・ロック」を読んだのだけど、これはなかなかすごい小説だった。
主人公は邪悪の化身のような17歳の少年ピンキー。カミソリと硫酸の小瓶を持ち、人を傷つけるのも殺すのも平気。罪悪感もない。大人のギャングとも張り合う。その彼が昔の仲間をブライトン・ロックという飴を使って殺す。
ブライトン・ロックというのはブライトンという海辺の町で売っている飴で、金太郎飴のようにどこを切ってもブライトンと書いてある棒状の飴。
検視では自然死とされたが、ピンキーを慕う16歳の少女ローズはある場面を目撃していて、殺人を疑われた場合、ピンキーにとって不利な証人となる。そこでピンキーはローズと結婚することを考える。妻は裁判で証人になれないからだ。
ローズはピンキーを愛しているが、ピンキーはまったく愛していない。彼は女が嫌いな男のようで、そうでなくても人を愛することなどない邪悪な少年。2人は結婚するが、ピンキーはローズが邪魔で、心中を持ちかけて彼女を殺そうとする。
ストーリーだけ書くとただの犯罪ものみたいだが、ローズはキリスト教の善と悪について考えていて、これがクライマックスから結末にかけての重要なテーマになる。
人間の本質は変わらない、ブライトン・ロックのどこをかじってもブライトンという文字が出てくる、という意味深なせりふもある。小説の語り口も文学的なレベルが高い。
ピンキーの殺人に気づいた女性がローズに接近し、ピンキーはあなたを愛していない、と忠告する。ローズはピンキーが自分を愛していなくても自分が惚れているのだからいい、と思ったり、いや、彼は私を愛していると思ったり。
しかし、読者はピンキーがローズをまったく愛していないこと、むしろ、嫌いなくらいだとわかっている。しかも、ピンキーはレコードにその気持ちを録音してしまっているが、ローズは蓄音機を持っていないので聞けない。
ラスト、神父への告悔を終えたローズが(彼女は妊娠している)希望を抱いてある場所に向かうとき、読者はそこに悲劇があるのを知っているが、彼女は知らない。衝撃的な結末だ。

「マリアンヌ」ではピット演じる主人公が、妻がドイツのスパイだと告げられる。妻がスパイなのかどうか、もしもスパイなら自分を愛しているのかどうか。カサブランカでの愛が、スパイの任務のための芝居だったのか、という疑問が当然あるだろう(その辺、描き方全然だめなんだけど)。
そして、夫婦が幼い娘に託した思いは、「ブライトン・ロック」のローズが期待した思いだ。ローズの期待は裏切られることが読者にはわかっている。
こんなふうに比べると、「マリアンヌ」がますますだめな映画になってしまうので、比べない方がよいだろう。
とにかくグレアム・グリーンはすごい。