2022年12月2日金曜日

「ピノッキオ」「あのこと」「ルイス・ウェイン」

 今週見た3本。

「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」は近場で見られたが、「あのこと」は近場でやっていないので丸の内TOEIで。せっかく都心へ行くのだからと、日比谷シャンテシネの「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」も見た。


「ピノッキオ」は何度も映画化された原作をかなり大胆にアレンジしていて、第一次世界大戦の空爆で死んだ息子のかわりにピノッキオを作る。第一次世界大戦の頃はまだ爆撃機はなかったのでは?とか、死んだ息子のかわりにとか「鉄腕アトム」か、などと思うが(ピノキオをモチーフにしたスピルバーグの「A.I.」と「鉄腕アトム」の類似があった)、物語はやがてムッソリーニの時代になり、ファシズムの時代への主人公たちの抵抗みたいなのが中心になる。

ストップモーション・アニメで、キャラデザがかなり暗くてグロっぽいところもある。何度も死んでは生き返る、みたいな人形の設定はどこから来たのだろう。試みは面白いのだが、何か違和感も感じた。


「あのこと」はアニー・エルノーの原作である自伝エッセイ「事件」を大幅にフィクション化していて、原作にないエピソードも多い。エルノーは若い頃に中絶の経験をもとにした小説を書いているようだけど、これは翻訳がないのでわからない。映画には原作としては「事件」しかあげられていないので、この初期の小説の方は無関係なのだろうか。

原作では薬で簡単に中絶できてしまったみたいに書かれているが、映画はもっと痛そうで大変なように描かれている。また、主人公が妊娠したとわかると友人までもが離れていき、どんどん孤立していく感じがよく描かれていた。本当に困っているときに人がどんどん離れていくというのは私も経験がある。

主演のアナマリア・バルトロメイの存在感がすばらしく、その白い肉体、そしてなにより瞳、その目力がすごい。

この映画はスタンダードサイズだったが、次に見た「ルイス・ウェイン」も同じくスタンダードサイズで、このスタンダードサイズの中心にぎゅっとつまった感じもよい。


「ルイス・ウェイン」は、主人公の猫画家ルイス・ウェインの伝記映画で、ルイスは映画ではルーイと発音していた。副題の妻とネコに加えて電気への関心も高かったようで、原題には電気が入っている、というか、原題は「ルイス・ウェインの電気的人生」で、妻とネコは原題にはない。ウェインが晩年、精神を病んでしまうのは知っていたが、その前に妹が同じ病にかかっていたようだ。

「あのこと」では原作にあった、医師のインターンが主人公を大学生だとは思わず、大学生、つまり自分と同じ身分だと知って態度が変わる、みたいなところがあって、映画ではそれはなかったが、そのかわりに、女子大生が妊娠するとキャリアを閉ざされるとか、大学を卒業できないとただの労働者になるとか、消防士の青年を大学生が差別しているとか、そういった階級が描かれていた。

「ルイス・ウェイン」は19世紀末から始まるので、イギリスの階級差別があからさまに描かれていて、ウェインが家庭教師と結婚すると家の格が下がり、さらに妹が統合失調症になると階級から落ちこぼれる、みたいなことも出てくる。そういうイギリスの階級のとげとげしさが前面に出ているので、ほのぼのとした映画とはいいがたい。カンバーバッチの演技はさすが。

絵画のようなシーンが時々出てきて、ウェインの絵をもとにした映像だろうかと思った。