2023年1月16日月曜日

「SHE SAID シーセッド その名を暴け」

 雨の日曜日、「SHE SAID シーセッド その名を暴け」を見に行く。



原作はニューヨーク・タイムズの2人の女性記者、ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーの調査報道の記録で、報道らしいノンフィクションだったけれど、映画は2人の記者の私生活の描写が多く、2人とも、育児をする夫に助けられているのがよくわかる。

おおむね原作通りで、ワインスタインを告発する録音の入ったスマホを置いて持ち主がトイレに行っている間に記者が自分のスマホにそれを移すという印象的なエピソードや、記事を新聞に公開するとき、まず電子版をクリック、次に紙版をクリック、そして最後にパブリッシュをクリック、というところも原作で印象的だったところ。

被害を告発した女性が、乳がんの手術に向かうとき、記者に電話し、娘のためにも告発する、自分の名前を出していい、と告げるとか、子を持つ母というのが全体的に強調されていて、これは原作にないもの。この辺が映画独自のポイントというところだろう。

同じころ、ローナン・ファローもワインスタイン事件を追っていて、原作にもファローの足音が後ろから迫っているといった表現があり、映画でも名前が出てくるが、どうも、ワインスタイン事件はファローの方が先に追っていたらしい。そして、被害者の女性たちはニューヨーク・タイムズの記者たちよりもファローの方を信頼して話をしていたというのだ。

というもの、2000年代にNYタイムズがワインスタインのことを取り上げたときの新聞の対応が悪くて、女性たちはNYタイムズを信頼できなかったのだという。

原作でも映画でも、女性たちはNYタイムズの記者たちにはなかなか話をしてくれず、紆余曲折の末、やがて女性たちが証言してくれるようになる、というあたりを描いているのだけれど、ファローの本「キャッチ・アンド・キル」では、女性たちから話を聞く苦労とかあまり書いてない。だから、彼女たちがファローの方に積極的に話した、というのを知って、なるほどと思った。

女性たちがファローの方に話をしたのは、NYタイムズの過去のことがあっただけでなく、ファローが父ウディ・アレンの娘に対する性加害疑惑について、父は黒だと主張し、このことがきっかけで女性の性被害について怒りを感じ、ワインスタイン事件について関わるようになったからかもしれない。アレンの件は現在のところグレーで、真相はわからないのだが、ハリウッドでは黒に近いグレーととらえられているようだ。ファローが本でアレンの件を怒りを込めて書いているのも、彼にとってワインスタイン事件とこの件が切っても切れないものだからだろう。

カンターとトゥーイーの本と、ファローの本を読み比べると、ファローの本の方が映画化して面白くなるような気がする。ファローはNBCでこの件の取材を始めたが、NBCが放送を拒否したのでニューヨーカーに持ち込んだという経緯がある。ファローよりもカンター、トゥーイーの記事が先に出たのも、こうした経緯のためかもしれない。カンターとトゥーイーには新聞社の上司などがついているが、ファローは孤立無援で巨悪に立ち向かっていく。こうした孤軍奮闘するファローの姿の方が映画に向いている感じがするのだが、話が大きくなりすぎているからむずかしいかもしれない。

ファローは同性のパートナーがいて、夫と子どものいる2人の女性記者とはこの辺も対照的。

コルトンプラザにはスケートリンクができていた。