2025年12月2日火曜日

「落下の王国」&「TOKYOタクシー」

 MOVIX会員のポイントは、最後に獲得した日から半年たつとそれまでのポイントがすべて無効になってしまうので、12月20日くらいまでには何か見に行かねば、と思っていたら、柏の葉で「落下の王国」をやっている。


この映画、2008年に日本公開されたものの、その後DVD化されただけでずっと見られない状態が続き、映画マニアの間で幻の傑作と言われていたようで、今回、4Kデジタルリマスター版が公開されるとミニシアターで大ヒット。都心は満席続出、地方も札幌とか都会のミニシアターは満席に近いらしい。

初公開時、見逃していて、監督の名前は知っていたものの、特に興味なかったのだが、MOVIX柏の葉は設備のよいシネコンだし広い部屋でやってるから見に行くことにした。

確かに映像美はすごい。出だしのモノクロのシークエンス、ベートーヴェンの交響曲第7番の有名な旋律からしてなんかすごいのだが、その後は鮮やかなカラーの絵画のようなシーンの続出。うーん、でも、これだけで大ヒットになるのかな?というのが率直な疑問。

公開時は映画賞などもとれず、世界的に見てもまったくヒットしてなかったらしいんだが。

今回、待ちわびた映画マニアが殺到して大ヒット、それをネットのニュースが伝えるからマニアというほどではない普通の人も見に行くようになっている、というのが公開2週目の今の様子なのだが、見たところ、その普通の人も見て満足してるみたいなのだ。

ストーリーは大けがをしたスタントマンが5歳の幼女に物語を語ることで、彼女に自殺用の薬を持ってこさせようとする、という話で、スタントマンがなんで自殺したいかというと、それはけがのせいではなく、恋人にふられたかららしい。

幼女はスタントマンを父親のように慕い、なんとか彼を救おうとするのだが、なんといっても5歳なので救い方もわからないし、自殺用の薬を手に入れようと必死になったりもする。

タイトル通り、落下のシーンがキーポイントになっているが、スタントマンも幼女も落下して大けがをしたのだ。そして、スタントマンの心を変えるのも落下。

たぶん、この幼女の、彼を救いたいというけなげな思い、幼いながらも必死で救おうとする様子が、普通の人の心もとらえるのだろう。

ラスト、古いサイレント映画のめちゃくちゃに危険なスタントシーンの連続とか、映像の様式美みたいなものが映画マニアや美術マニアを惹きつけるだろうけれど、語られる物語は意外と単純な失恋話で、それで失望して自殺したがっているスタントマンを救おうとするけなげな幼女、というのが、普通に描いたらばかばかしくなる話を芸術的な映画にしてるのがミソなのかな。

と、ちょっと距離を置いて見てしまったのだが、好きな人は好きなのだということはわかる。

12月1日は映画の日で1000円なので、せっかく高い電車賃使って柏の葉まで行くのだからと、山田洋次の「TOKYOタクシー」もハシゴすることにした(こっちを先に見た)。


原作のフランス映画「パリタクシー」は見てないのだが、結末は途中から予想できてしまった。

倍賞千恵子がお金持ちのマダムを演じる、というのがこれまでにない設定で、倍賞以外の女優だったらこういうマダムにはならないだろう。裕福でエレガントだが、貧しくつらい時代も経験してきた感じがよくでている。昔はよかった、みたいに過去を美化しないのもよいのだが、そのわりには社会問題への意識はさほど強くないし、現代の社会問題への言及はない。裕福な老婦人とあまり裕福とはいえないタクシー運転手の貧富の差とかは感じられない。ていうか、このタクシー運転手、たまたま今出費がかさんでるだけで、苦しい生活ってわけではなさそうだ。

そんなわけで、倍賞の演技を楽しむにはとてもいいのだが、見終わってみると何も残らない。

昼間の東京のあちこちを映す映像は、最近のハリウッド映画が時々使う1970年代ふうの映像になっていて、なんだか現代ではない雰囲気。不忍池にいる中国人家族がパンダのぬいぐるみを持っているのも安易な設定。パンダのぬいぐるみなど持たずに普通に中国人観光客が上野にいるように描いた方がリアルなんだが(実際、持ってないよ、パンダのぬいぐるみ)。

後半の横浜の夜の風景はきらびやかで昼間の東京とは違い、観光的になる。そのあとの葉山のあまりにも殺風景な夜のシーンとの対比のためだろう。この葉山の高齢者施設のスタッフの対応がなんだか冷たくて、お金があってもこういうところに入りたくないなと思った。老婦人は車椅子を拒否するが、こういう施設では下手に自分で歩いてけがすると困るので無理に車椅子生活にさせてしまい、それで足腰がだめになってしまう、という話もネットで読んだことがある。

以下ネタバレ。

ラスト、亡くなった老婦人が遺産(1億円くらい?)を運転手に遺し、これで家族でヨーロッパ旅行に行き、クラリネット奏者を夢見る娘によい音楽を聞かせてやってほしいという手紙を書いていたことがわかるが、娘をお金のかかる音大付属高校に入れ、その後はヨーロッパに留学もさせてハッピー、ではなく、大金が入ったとわかった周囲の人たちが金の無心にやってきて、本人たちも大金のせいで堕落してしまう、みたいな後日談を想像してしまった。

ららぽーと柏の葉のクリスマスツリーと、柏レイソルの展示。