2013年5月14日火曜日

ある作品賞受賞作

今年、アカデミー賞作品賞を受賞したベン・アフレック監督の「アルゴ」をDVDで見た。
のっけからなつかしいワーナーのロゴマーク。映画は舞台となった1979年から80年に合わせて、ほとんど70年代映画のような作り。映像も俳優の髪型や衣装ももろ70年代。なつかしすぎる!
おまけに「猿の惑星」やら「スター・ウォーズ」やら、なつかしのSF映画がモチーフになっている。こりゃ、受けるな、映画ファンには。
で、話は79年に起こったイランのアメリカ大使館人質事件。その大使館から逃げ出して、カナダ大使館に逃げ込んだ6人のアメリカ人外交官をカナダとCIAが協力して救い出す話です。
この事件がなぜ起こったかというと、それは映画の冒頭に簡潔に描かれています。要するに、英米がイランの石油の利権を守るために、パーレビ国王を擁立してイランを支配、が、このパーレビがけしからん国王で、イラン人を圧制、ついにイラン革命が起こり、パーレビはアメリカに亡命、それに怒ったイラン人が大使館占拠した、というわけで、映画の冒頭では、イラン人が怒るのも無理ないのだよ、ということは言っています。
しかし、そのあとは、CIA局員の主人公(アフレック)が、6人をSF映画の撮影のロケハンに来たカナダ人だということにしてイランから脱出させるという計画をいかにして成功させたかという実話にもとづくフィクションになっています。
まあ、一応、面白い映画ではありますね。アメリカ人なら、最後は拍手喝采でしょう。それでアカデミー賞作品賞まで取ってしまったが、面白くないのはイラン。前年に「別離」が初の外国語映画賞をもらったとはいえ、なんじゃこれは、てな感じで、同じ題材で映画を撮るようです。
また、6人をかくまい、脱出にも貢献したカナダの役割が小さくなっていると、カナダも面白くないらしい。
まあ、いいんですけどね。「リンカーン」よりこっちの方がアメリカ人には受けたと。(「リンカーン」まだ見てないのだが、どうも評判がイマイチで。)
とにかく、わたくし的には、なつかしの70年代映画を再現したような作りには感心したというか、面白かったのですが、最後の、あまりにもありきたりな、今のハリウッド映画のハラハラドキドキの作りが幻滅でした。実際はあんなふうではなかったに違いないのに、間一髪で脱出を盛り上げるための作為があまりにも工夫がない。70年代ふうに見えながら、なんだ、結局、今のハリウッド映画じゃんか、というのが正直、がっかりでした。
うーん、アカデミー賞とってなかったら、それなりに評価したのかもしれないけど、これがアカデミー賞?って、ちょっと思いましたです。70年代ふうだけど、70年代のハリウッド映画はもっと骨があったよね、と。まあ、年寄りの冷や水かな。
そういえば、カナダ大使公邸のメイドたちを、映画ではハウスキーパーズと呼んでましたね。日本の文芸翻訳家たちはさかんに、ハウスキーパーを家政婦と訳すのはおかしい、ハウスキーパーは女中頭、家政婦はメイド、とか言ってますが、でも、もともとは家政婦はハウスキーパーの訳語だったのが、メイドの女中が差別語になって、それでお手伝いさんだと長いから家政婦になったのだと私は思うのですが、この映画だと、メイドがハウスキーパー、つまり、メイドが家政婦でもいいんじゃないの?ということが明らかになったのかどうかは知りませんが、とにかく、メイドをハウスキーパーと言ってましたです。
で、そのイラン人メイドが、脱出に協力したということで、イラクに亡命するのですが、「イラクに亡命してまでアメリカ人を助ける必要があったのか」と某所に書いてあって、同感でした。
そして、このイランの事件のせいで、アメリカはイラクにつき、フセインを作り出し、それが湾岸戦争になり、9・11になり、と続いていくのですが、そんなことへの反省はまるでない映画です。そういうことを求めるな、というのはわかりますが、でも結局、アメリカ人さえよければいい映画なのか、と思ったら、やっぱり、作品賞だけは取ってほしくなかったなあ、と。