2013年5月22日水曜日

入室拒否

先日、久しぶりに試写室入室拒否にあった。
最近は仕事の関係で試写に行ける日が限定されてしまい、また、混雑するような映画の試写状は来ないことから、入室拒否には長い間、あっていなかった。
試写室に着いたのは試写が始まる25分前。普通なら余裕で入れる時刻である。スタッフの様子から見て、人気のある映画の最終日なので予約が多く入っており、中にはその予約客のための空席が多数あるのではないかと思われた。いや、それだけでなく、予約していない有名人のためにも席をとってあるような感じがした(私の名前を見て、ちょっと考えているようだったからだ)。
こういうことは以前にも経験していたので、何も言わず、あきらめて帰った。
確かに開始15分前くらいだともう補助席までいっぱいで、入る余地がない場合があることは知っている。また、開始30分前でも、あきらめて帰る人が何人もいて、こりゃだめだわ、と思うこともあった。しかし、このときはあきらめて帰る人は私のほかに1組(2人)だけで、そういう人がぞろぞろいる感じではまったくなかった。
試写の中には、混雑が予想されるので予約してください、と試写状に書いてあるものもあるが、この試写にはそういうことは書いていなかった。また、上に書いたように、今は試写に行ける日が限られるので、この最終日まで行くチャンスがなかったので、予約が必要な状態とも知らなかった。
幸い、この日は同じ時刻に別の場所で試写があり、そちらは余裕で入れて、見ることができた。

そうしたことがあったあと、映画にも主演して活躍する有名な乙武さんが、銀座のイタリアン・レストランで入店拒否され、店の名前をツイッターでさらしたことから、双方に非難が集まるという出来事が起きた。
乙武さんは土曜の夜に予約を入れていたが、車椅子であることを事前に伝えなかったため、レストランでは対応できず、断った。そのことで乙武さんは激しい怒りを感じ、本人も言うように、理性を失ってツイッターで店の名前をさらしてしまったのだ。
当然、レストランへは非難のメールや電話が殺到、オーナーシェフの店主がツイッターで謝罪し、ホームページに今回のいきさつについての説明と、以後は車椅子の場合は事前にご連絡をということを明記します、と書いた。乙武さんもそれを受けて、車椅子の事前連絡がなかったことを詫び、いつか機会があったらまた行きたいと書いて、一件落着に思えた。
しかし、いったんついた火はなかなか消えないようだ。
この銀座の店は1階がドトールということで、調べてみたら、このドトールは私が以前、よく行ったところだった。このすぐそばに今はなきUIPの試写室があって(ここで拒否されたことはなかったなあ、まあ、仕事してたからだが)、その帰りに寄ったりしたものだ。このドトール自体が狭かったが、レストランはこのすぐ上らしい。エレベーターは2階には停まらず、階段で上がるしかない。店は狭く、カウンター6席、2人テーブルと4人テーブルが1つずつのみ。車椅子で上がること自体が不可能な造り。乙武さんはもともと電動車椅子なので、車椅子で入ることは考えていなかったらしく、体を抱えて中に入れてほしいと頼んだようだ。しかし、店は店主とスタッフ1人しかおらず、予約でいっぱいの土曜の夜なので、対処できなかった。
この店に入るまでには急な階段を上ったりと、えらく大変らしいことは、下のブログの写真を見るとわかる。なぜ、こんなところに店を開いたのか? もちろん、不利な条件なので、銀座にしては家賃が安かったのだろう。開店は去年の8月らしく、最近になって雑誌で知られ始めたようで、車椅子の人が来ることを予想していなかったに違いない。
http://blogos.com/article/62742/
だから、問題は店主の対応の仕方が悪かったのではないか、ということになるのだが、この店主というかシェフはかなりエキセントリックな人のように見える。よくある、頑固なラーメン屋の主人とか、頑固な古本屋の親父とか、そういう感じかもしれない。気に入らなければ帰ってくれ、という感じ。そういう人がいてもいいし、いなくならないでほしいと思うが、ただ、この店主、ツイッターで客をディスったりしていて、頑固な店の親父としてはこれはちょっと失格。
乙武さんのツイッターのせいで相当たくさんの非難のメールや電話が殺到したことは間違いなく、その上、自身のツイッターでの客ディスリまでトゥゲッターにまとめられてしまったせいか、店主はその後、ツイッターで、これまでのツイッター上の言動を謝り、その上で、乙武さんには敬語を使っていた、「これがうちのスタイルだ」とは言っていない、と弁明した。
それで頭にきたのが乙武さん、というわけで、次のようなブログ記事が出るはめになる。
http://ototake.com/category/mail/
車椅子であることを事前に知らせたことはなく、それで困ったこともない、というところで、まず、セレブは違う、と思ってしまうのだが、この文章を読んで感じたことが2つある。
1つは、それまで表に出ていなかった同伴者の女性のこと。ビルの入口に着いた乙武さんは段差のためにビルの中に入ることさえできず、おそらくその女性に中に入って事情を知らせてもらった。その女性と店主の間に何か言い争いのようなものが生じ、女性は泣いて外に出る。あとを追ってきた店主がきついことを言ってしまう、という状況だったようだ。女性と店主の間に何があったかは乙武さんは女性から聞いているが、見てはいない。
なぜここで、これまで出てこなかった女性の話を出したのかというと、たぶん、他の人からこの女性の話が出る前に自分から言ってしまった方がよかったからだろう。他の人から出ると、いらぬ誤解が入るおそれがある。上のブログ主は店主から事情を聞いたが、店主が、すでに和解しているので公にしないでほしいと言ったというが、そこにこの女性の話が出ていたに違いない。また、その場には客もいたから、どこでこの女性のことが出るかわからないのだ。
それにしても女性だけの同伴で(ふだんは男性スタッフを連れていくのだという)、知らないレストランに下見もせずに行くというのに、リスクに対する甘さを感じてしまうのだが。
もう1つは、店主が「これがうちのスタイルとは言ってない」という部分。敬語だったというのは、要するに「ですます」調だったということだろうが、言葉というものは言い方がていねいでも、この人は自分を拒否していると思えば、暴言に聞こえるのだ。また、この店主のツイッターは、おそらく、電話やメールで非難してきた人への返答で、乙武さんに対する反論ではない気がする。メールや電話で、「おまえのところは車椅子の人を差別するのが店のスタイルなのか」と言われて、「それがうちのスタイルとは言ってない、うちの店は車椅子に対応する設備がないという意味だ」ということかもしれないのだ。ところが、乙武さんは、「店主はうそつきだ」と思い、そう書いてしまっている(だからツイッターはやりたくないのだ)。
私が特に注目したいのは、乙武さんの次の文章だ。
「他人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべる店主に、ますます僕は頭に血がのぼってしまった。」
店主はもちろん、乙武さんを小馬鹿にしたわけではないと思う。しかし、断るときに笑みを浮かべて断るには違いない。
そこで、最初の試写室入室拒否の話に戻るのだが、私が試写室入室拒否にあって一番頭に来るのが、実は、入口のスタッフが笑みを浮かべて、まさに「他人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ」て、入室を拒否することなのだ。単に笑みを浮かべていた方がいいと思って浮かべているだけなのだろうが、中に空席があり、予約の人だけでなく、いきなり来た有名人のためにも座席を取っているから断るのだろう、と感じるときに、この笑みを見ると、私でも頭に来る。
ただ、今回の場合は、やはり店側にやむをえない事情があったのは確かで、事前連絡もしなかったのだから、ここでその笑みを「小馬鹿にした」と取るのは行きすぎだろう。でも、断るときの笑みやていねいさは、かえって誠意がないと感じられるということは覚えていてほしいものだ。
今回の件では、私は乙武さんの方にやや非が多いと感じたし、上にあげたブログのような、謝罪すると見せて相手を非難する文章は非常に印象が悪く、店主の方に同情してしまう。ただ、受け入れられると思っていたときに断られるときのむかつきみたいなのは、普通の人でも日常的にあるし、いちいち怒らないというか、愚痴で終わるものだよな、と思った。