2013年8月30日金曜日

「東京」の風景

「東京家族」の追記ですが、この映画では老夫婦の長男はつくし野というところに住んでいて、映画の冒頭から「つくし野」という地名が何度も出てきます。
私はつくし野というのは神奈川県横浜市だとばかり思っていて、東京なのに???東京にもつくし野が???と思って見ていました。
東京の西の方で、新幹線は東京より品川で降りた方が近い、という場所だとどこだろう、と、東京西部というと中央線と京王線と西武線の沿線しか知らない私は考え込んでいました。
調べてみると、つくし野は東京都町田市。町田市が東京都だということは知っていますが、実は、町田市を神奈川県だと思っている人がかなりいるのです。私が東京都だと知っているのは、ひとえに、私が神奈川県生まれなので、神奈川県ではないことを知っていて、消去方式で東京都になるからです(町田市民のみなさん、ごめんなさい)。
実際、町田市は神奈川県にはみだしていて、特につくし野は横浜との境にあります。ほとんど横浜、だから横浜だと思ってたのか。
このあたりは多摩丘陵を切り開いて造った昭和の新興住宅地のはずだ、と思い、ウィキペディアで調べたところ、東急田園都市線のつくし野駅がまずできて、そこからつくし野という地名になったそうです。東急が開発した住宅地で、80年代にはテレビ「金妻」の舞台になったとか。おう、ファッショナブルな町だったのではないか。
マンション建設が禁止されているので、80年代からの町並みがそのままにある、とのことで、そうか、それでここが選ばれたのか、「東京家族」に。
確かに70年代頃から鉄道会社が郊外に住宅地を開発し、そこがベッドタウンになる、という時代がありました。東京郊外や他県に次々とベッドタウンができた時代です。
この映画のつくし野は、だから、東京の代表というよりは、昭和後期にできた首都圏のベッドタウンの代表なのです。

映画に出てきた東京の風景もう1つ。
ツタヤで4枚1000円でレンタルし、「オズ はじまりの戦い」、「俺たち喧嘩スケーター」、「東京家族」のことは書きましたが、最後の1枚はタルコフスキーの「惑星ソラリス」。もちろん、初公開時に岩波ホールで見ています。あれ以来、私のSF映画ベストワンの地位を初代「スター・ウォーズ」と分け合っている映画ですが、その後見る機会がなく、記憶の中の映画になっていました。DVDもしばらく売っていない状態で、大学でSF映画の講義をしたときも、「惑星ソラリス」がないのでしかたなくソダーバーグの「ソラリス」を取り上げたのでした。
そして今年、新たにDVDとブルーレイが発売になり、DVDをレンタルして、久しぶりに、日本公開が77年だから実に36年ぶりに見ました。
この映画については1回しか見てないにもかかわらず、かなり細かいところまで覚えていたのですが、その覚えていたところが記憶の中で増幅されていたみたいで、あれ、こんな程度の描写だったのか、と思うところもいくつもありましたが(小さい画面で見たから小さく見えた、というのもあるけど)、1番印象が違ったのが、前半の東京の首都高速が出てくるところです。
この映画は1972年製作で、日本公開は5年も遅れたのですが、タルコフスキーは未来都市の映像に東京を選び、首都高でロケしたのです。
これは公開当時もとても話題になっていたので、映画館では目を凝らして見たのですが、当時はあまりピンと来ませんでした。関東に住んでる人間からしたら、あまりに日常の風景なので。
しかし、今見ると、この首都高の風景が70年代のSF映画の未来都市にぴったりなのです。
映画はまず、水と緑に包まれた田舎の家から始まり、その家を訪れていた男が車で都会に帰る、そのシーンに首都高が使われています。当時の東京は今ほどビルがなく、もちろん、超高層ビルもなく、今より空が広いですが、なぜか、この方が今の東京よりこの映画の未来都市に合っている。トンネルのシーンが多いのも意図的だと思いますが、日本語の案内板もいくつも映ります。それも、今みたいな電光掲示板じゃなくて、いかにも昭和の時代のキッチュな掲示板です。当時はやっぱり、これはあまりに身近すぎて、アレでしたが、今見るとおお、70年代のSF映画の未来都市じゃん、と思えるのは、もちろん、「ブレードランナー」のおかげです。「ブレードランナー」は「惑星ソラリス」の10年後の作品ですが、ある意味、「ブレードランナー」を先取りしてたかもだ、この首都高のシーン。
「惑星ソラリス」についていえば、あのラストの衝撃に尽きますね。あのラストも、私の記憶では、ワンカットでずっとカメラが引いていった印象だったのだけど、いくつものカットの積み重ねでした。