2020年10月23日金曜日

「スパイの妻」

 ベネチア映画祭銀獅子賞受賞。



「鬼滅の刃」で大混雑だろうから当分映画館は行かない、と思っていたが、某映画館の座席市松模様は木曜が最後とわかり、行ってきた。「鬼滅」の群衆にまぎれることを恐れていたけれど、映画館は特に混んでいなかった。

さて、「スパイの妻」ですが、確かに演出のうまさを感じるシーンは随所にある。役者の演技もいい。でも、映画としては不満が多い。
黒沢清監督の映画はほとんど見ていないので、彼の作風や過去作から判断して見ることができないのだけれど、普通にひとつの作品として見た場合、いろいろ突っ込みどころが満載。
特に前半はヒロインの聡子が3人の男たちにマウントとられてばかりの無知な主婦として描かれ、まさにマンスプレイニングなので、女性差別だろ、とイライラ。
途中で聡子が目覚め、突然、夫に対して主導権を握る行動に出るのだが、そこで立場が逆転、なんてことはなく、最後は結局、夫の術中にはまっていたのだとわかる。
「スパイの妻」のタイトルの通り、この映画は聡子の視点で描きとおさなければならないはずなのだが、彼女と夫が対等のキャラになっているシーンが目につく。そのため、正義感が強く、賢く社会を見ている夫と、無知な妻、という構図になってしまい、聡子が真相を知って正義感に目覚めるのも唐突というか、結局は夫を愛するから夫の正義感に同調したみたいな、やっぱり女は、という女性差別的な印象を与える。
この映画は、聡子に惚れている憲兵が絶対に彼女に危害を加えないという前提に頼っていて、この憲兵が立場を利用して聡子をものにしようなどとは考えない、本質的にピュアな善人なので成り立っている。この前提が崩れたらこの話は成立しない、いや、もっとリアルな話になったはずなのに、このご都合主義が要所要所で使われる。
テレビドラマを再編集した劇場版とのことで、もとの長尺のテレビドラマならまた違うのかもしれないが、映画では時々唐突な展開とご都合主義と差別的な女性観がいらいらする。「おみごと」って、まあ、ミステリーのどんでん返しとしては「おみごと」ですけど、うーん。