2022年2月10日木曜日

「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」

 明日から公開の「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」を試写で拝見。

原作のノンフィクション「麻薬と人間」も図書館から借りてきた。借りてきたばかりでまだ読んでいないけれど、第1章が「アメリカvs.ビリー・ホリデイ」で、特定の人々への迫害や弾圧の口実として麻薬が使われた、という話らしい。


映画はロッテントマトでの評論家の点数がかなり悪かったので、期待はあまりしていなかったが、確かに映画としては不満な出来。

主演のアンドラ・デイは熱演しているけれど、脚本と演出がまずいので、彼女の演じるビリー・ホリデイの生涯がドラマとして引き立たない。

彼女を逮捕する黒人麻薬捜査官ジミーは、黒人を麻薬から救いたいという思いから記者を装って彼女に近づくのだが、その後、考えを改め、彼女の味方になる。が、どうも存在感が薄い。

そしてビリーの敵、麻薬捜査局長アンスリンガーは、彼がどういう信念で執拗にビリーを逮捕しようとしたのか、その心理も政治的社会的背景もまったく描かれないので、単なる敵役にしかなっていない。

ビリーの歌う「奇妙な果実」が公民権運動を巻き起こすのを防ごうとしたようだが、アンスリンガーと警官たちがビリーがこの歌を歌うのを断固妨害して歌えなくするシーンや彼女を罠にかけて逮捕しようとするシーンが時々ある程度で、タイトルのような国家権力対ビリーのような印象はそれほどない。アンスリンガーの描写が不足していて小者にしか見えないのもその原因だが。

逆に印象に残るのは、ホテルのエレベーターに乗ろうとしたビリーが黒人のエレベーターボーイに拒否されるシーンや、南部でリンチされ木に吊るされた黒人の姿を見て「奇妙な果実」を歌うシーンだ。後者はダイアナ・ロス主演の「ビリー・ホリデイ物語」でも印象的だったが、暗い雰囲気の描写だった「ビリー・ホリデイ物語」に比べ、こちらは日の当たる明るいシーンに子どもの悲痛な叫び声が聞こえるという効果的な描写になっている。

一方、エレベーターボーイに拒否されるシーンでは、ビリーはボーイを激しくなじるが、ボーイは自分の仕事と立場を守るためにやむなくやっていることがわかる。他の黒人たちの描写も、ビリーのヒモのようなあくどい男や、ビリーの仲間たちなど、非常に人間臭く描かれている。やはり、実在の人物であるジミーとアンスリンガーの描写に相当の遠慮が働いてしまったのだろう。この2人の描写がとにかく弱いのだ。