2022年2月26日土曜日

「ゴヤの名画と優しい泥棒」「ガガーリン」「ボブ猫2」

  2月25日はつくばエクスプレス沿線で3本ハシゴ。



まずは流山おおたかの森で「ゴヤの名画と優しい泥棒」。ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵のゴヤ作のウェリントン公爵の肖像画が盗まれた実話の映画化。このウェリントン公爵の肖像画、2020年に西洋美術館で開催されたロンドン・ナショナル・ギャラリー展で見ている。盗難のことは知らなかったが、かなりよく覚えている印象的な絵だった。

そして、隣の柏の葉で「ガガーリン」と「ボブという名の猫2 幸せのギフト」。どちらも大きなスクリーンの広い部屋だったが、「ガガーリン」はお客さん5人くらい。そして、「ボブ猫2」はなんと、おひとり様でした。

これまでもおひとり様で映画見たのは何度かあるけれど、公開初日でかなり広い部屋でおひとり様って初めて。大丈夫か、この映画。

「ガガーリン」は60年代初めに建てられたパリ郊外の古い公営住宅、宇宙飛行士ガガーリンにちなんで名づけられた団地が老朽化で取り壊しになる話で、今住んでいる団地が同じころに建てられたものなので興味をそそられた。

そして、まさかのリピーター映画になっている「ボブ猫2」。「ゴヤの名画~」と同じ日に見たので、イギリスの貧しい人々についての映画として比較できたのはよかった。

実は3本とも、貧しい人々が主役の映画なのだ。

そのうち、イギリスが舞台の「ゴヤの名画」と「ボブ猫2」には、貧しい人は~してはいけないのか、という共通のテーマがあることに気づいた。

「ゴヤの名画」はテレビを持つ人はBBCに受信料を払わないといけない、そのために貧しい高齢者がテレビを見られない、ということから、主人公はゴヤのウェリントン公爵の肖像画を盗んで、その身代金を受信料にあてて、貧しい人もテレビを見られるようにしようとする。つまり、受信料を払えない貧しい人がテレビを見られないのはおかしい、という主張だ。

原題は「ザ・デューク(公爵)」だが、ザ・デュークといえばイギリスではウェリントン公爵のことなのだろう。歴史上の有名人であり英雄でもあるが、主人公はむしろ、普通選挙権に反対した人物ととらえていて、このあたりもイギリス人らしい反骨精神が感じられる。

主人公はロビン・フッドの精神でゴヤの絵を盗むのだが、あの裁判の結果は、やはりロビン・フッドの国だと思う。

間に「ガガーリン」を挟んで「ボブ猫2」を見たわけだが、「ボブ猫2」もまた、貧しい人はペットを飼ってはいけないのか、というテーマがある映画だと気づいた(「ゴヤの名画」のおかげです)。

映画の前半、主人公ジェームズが外でバスを待っているとき、向かいの獣医から裕福な夫婦がペットの猫を抱えて出てくる。それを見たジェームズが「世界が違う」とつぶやく。映画のなかほどでは、慈善団体のもとでペットを無料で診てくれる獣医のところへ、貧しい人々が犬などを連れてきているシーンがある。

そして後半、ジェームズが貧しいので猫が不幸なのではないかと疑われ、動物福祉局にボブを奪われるかもしれない事態が発生、そんな中でジェームズ自身、貧しい自分のもとにいたのではボブは不幸なのではないかと思うようになる。

この映画を見た人がツイッターで、「自分より裕福できちんとした人に飼われた方がこの子は幸せだったのではないかと一瞬でも考えたことのある人はタオルハンカチが必要」と書いていたが、まさに映画の核心を言い当てている。

ペットにとってはお金持ちの家で安楽に暮らせるのが一番。貧乏人はペットを飼うな、それがペットのためだ、と言われたら、なかなか反論できない。

「ゴヤの名画」の老人は、貧しい人もテレビを見るべき、という考えに迷いはなかったけれど、ジェームズは、やっぱり貧しい人はペットを飼わない方がいいのではないかという気持ちになる。でも、「ボブ猫2」の結論は、貧しい人でもペットを飼っていい、責任を持って飼っていれば、ということだ。ジェームズはボランティアの獣医にボブを診せたり、マイクロチップを埋めたりもしている。貧しい人がペットを飼うことを支援してくれる人たちがいるのだろう。

「ゴヤの名画」と「ボブ猫2」を見ると、イギリスでは貧しい人でも~していいんだ、ということを正々堂々と主張できるのだと思った。日本では、貧しい人は~するな、みたいな言説が多いように感じる。貧しい人は我慢すべきという考えがはびこっているように思う。

この2本に挟まれて見た「ガガーリン」は非常に芸術的で幻想的な作品で、ちょっと落差がありすぎたせいか、あまり乗れなかった。

公営住宅なので、住んでいる人たちは貧しい人たちのようだが、取り壊しになって住む場所がなくなるとかそういう問題はない。もっと社会性のある話かと思ったのだが、どうもそのあたりが抜けている。

主人公の少年は取り壊しになる団地にたてこもって、そこを宇宙船のように見立てている。月面歩行やライカ犬のモチーフもあって、まさに1960年代の宇宙開発なのだが、現代の少年がなぜそれを夢想するのかがイマイチよくわからない。私が住んでいる団地もガガーリンとかテレシコワとかの時代の建物なんだが、この映画のような感覚は、当時を知っている私でも持てないし、ピンと来ない。当時を知っているから余計に違和感があるのかもしれない。

入場者プレゼントで、4種類あるポストカードの内、ランダムで1枚もらえる。下の4種類の絵柄のようだが、配られるポストカードには細かい文字はなく、「ガガーリン」のタイトルと絵だけです。私がもらったのは右の絵のもの。4種類の中ではこれが一番好みなので、よかった。