2022年9月2日金曜日

「ブレット・トレイン」(ネタバレ少しあり)

 原作も読み終えたのでファーストデーに行ってきました。





予告編を見たときからこれは見たいと思っていたのだけど、期待を裏切らないハチャメチャな映画であります。

原作と同じところもあれば変えたところもあって、変えたところは、なんで変えたの?と思うよりは、そうか、こう来たか、と感心するところが多い。

中学生は若い女性に変わっていて、動機や設定も変わっているけれど、原作の(ネタバレ)親分には息子と娘がいて、というところをうまく利用している。

真田広之、マイケル・シャノンといった大御所がクライマックスで大活躍、トリはサンドラ・ブロックというB級の香り漂うA級大作。

ミカンとレモンは原作ではミカンが文学オタク、レモンが機関車トーマスオタクなのを、映画ではレモンはそのまま、ミカンはコックニー訛りの男(文学オタクではない)に変え、2人の行く末も変えているが、ラストも原作のミカンとレモン再登場をまったく別の出し方に変えている。クライマックスからラストに集約させるという点ではこれもあり。

映画に対する愛がないとかいう批判がある?のかどうかしらないが、日本の評論家は「キル・ビル」とか「犬が島」みたいな作家の香りが満ち満ちている映画はほめても、こういうキッチュな遊び心がいっぱいの映画は意外に理解しない。私はむしろ「名探偵ピカチュウ」の味わいを感じた。

最初の方の飲み屋に北村という文字が見えたんだが、もしかして北村薫って書いてなかった?とか、車のナンバープレートが奥多摩とか、ひかりじゃなくてゆかりとか(ゆかりという日本語があるのをわかってやってる)、銭湯の絵みたいな富士山とか、これ、日本オタクの映画人が絶対いるよね。ていうか、日本サブカルオタクがハリウッドには一定数いて、それでこれみたいな映画が出てくるんだと思う。

浜松すぎてから富士山が見えるとか、ツッコミどころは満載なのだけど、あの富士山の登場のしかた、「ルドルフとイッパイアッテナ」の冒頭によく似てる。「ルドルフ」は岐阜で東京行のトラックに乗ってしまったルドルフが夜中に目覚めると、でっかい富士山が見える。

あの弾丸列車(形は新幹線)もこだま並みに止まるし、なんだか夜行列車らしく、途中で朝になるとか、京都に行くのに何時間かかってんだ、という感じだが、昔あった寝台急行「銀河」を思い出した。東京ー大阪間を一晩かけて走るのだ。

京都がやたらしょぼく描かれてるのは京都人には不満だろうけど、秋葉原(SONYのでかいネオンサイン)と新橋かどこかの飲み屋街が東京で、京都は時代劇の世界になってる感じ。

日米のなつかしの名曲が流れ、とっておきの日本の歴史的名曲が最後に登場するとか、やっぱり日本サブカルオタクだろ、作ってるの。

エンドタイトルは「名探偵ピカチュウ」っぽい。最初から日本語バンバン文字で出てくるけど、あのあたりの日本の予告編的サブカル感とか悪くない。

何度も見ると細かい遊びがあって面白いんではないかと思うが、それは他の人が書いてくれるでしょう。リピートするほど好きってわけではないけど、役者がみんないいのはさすがハリウッド。


ツッコミどころといえば、原作だと、ある人物が主人公の乗る新幹線に大宮から乗るって、不可能だと思うんだが、映画では最初、自由席(エコノミークラス)だとさんざん言っておいて、後半、原作通り、席は全部買ったとかいって整合性を欠いているところはある。原作の(ネタバレ)殺し屋である車掌とか車内販売員とかは無関係な善人に変えられていて、全体に日本人は悪者にしないというところは白人の作る映画だからだろう。

あと、アメリカ人は鉄道をあまりわかってないというのはある。日本だと鉄道ミステリーは時刻表関連が多いんだけど、あちらは鉄道でアクションやら犯罪やらが起こるというもの。日本の鉄道ミステリーは列車が時刻表どおり運行されるから可能なんで、外国では無理なんだろうが、アメリカ人はやっぱり長距離列車そのものをあまりよく知らないんだろうなとは思った。後半はありえない荒唐無稽なアクションシーンも多かったが、映画自体がそもそも荒唐無稽なので、あまり気にならない。