2023年11月2日木曜日

「理想郷」(ネタバレ大有り)

 スペイン映画「理想郷」。試写で見させていただいたのですが、もう明日公開なので、ネタバレありでいいでしょう。

なんとなく、都会から田舎にあこがれてきた人が村八分にあうみたいな紹介のされ方をしているのですが、実際は少し違います。

もとになった実話の映画はこちら。

Santoalla (2016) - IMDb

そして、「理想郷」は、原題が「野獣」なんですね。英語題名はThe Beasts。

As bestas (2022) - IMDb

「理想郷」というと、なんとなくこういう絵が思い浮かぶわけですが(Rotten Tomatoesより)。


上のIMDbの画像だとこんな感じ。


映画の冒頭で、スペインのこの地方では野生の馬を男たちが素手で捕まえ、印をつけて野に返す、ということが告げられます。それが右の写真で、左は都会から来た男が地元の男たちに、というシーンで、この2つのイメージが重なっているのだけど、それがどういう意味なのかはひとことでは言えない感じ。

実話ではオランダ人の夫婦が田舎生活にあこがれてスペインの田舎に移住してくるけれど、そこにはもう1家族しか住んでなくて、その家族が、という話。「理想郷」の最後に「マルゴへ」という文字が出てくるけれど、実話の夫婦の妻がマルゴ。

一方、実話をもとにしたフィクションの映画「理想郷」は、フランス人の夫婦がスペインの村(名前は変えてある)に移住してくるけれど、隣の兄弟にニラまれて、いやがらせがしだいにエスカレートしていく。

実話と違って村人はほかにもいて、夫婦と仲良くなる人もいるけれど、この兄弟の兄が村を牛耳っていて、まわりは従わされてしまうみたいな様子が最初のシーンで描かれている。

過疎の村なので兄弟は結婚もできず、老いた母と3人暮らし。馬を飼っている。

移住してきた夫婦はフランスの都会人で、夫は元教師。フランスに娘と孫がいて、田舎の村を観光地にして活性化させたいみたいな希望を持っている。だから、風力発電の誘致に反対。が、村では風力発電のお金をもらいたい人が多く、兄弟ももちろんそう。

夫は観光地にしたいし、公害の問題もあるから当然、風力発電反対。風力発電はノルウェー人がやってるらしい。

そんなわけで、過疎でろくに収入がない村人、特にその兄弟が風力発電でお金もらいたいのに、反対するフランス人が来て、しかもそのフランス人の言うことが都会的でインテリでいちいち、その田舎の男の気に障る、というのがものすごくよくわかる。

でも、いやがらせするのはその兄弟だけで、他の村人は黙って見ているだけなので、田舎全体が敵という感じではない。フランス人夫婦も田舎にあこがれた都会人というほど単純ではなく、特に夫は田舎を観光で活性化させてやるみたいなちょっと上から目線の人なところもあって、この辺も都会対田舎、理想と現実のような単純な話ではない、というのがこの映画のいいところだ。

夫が行方不明になり、というか、観客には何が起こったか見せてしまうのだが、後半は夫を探す妻の話になる。妻は夫のような上から目線ではなく、夫に対しても抑制するようなところがあったのだが、後半はとにかく真相を突き止めようとひたすら努力。その途中で羊を飼うことにするのだが、隣の兄弟は馬、彼女は羊、というのがまた意味深。(ついでに、猫と犬が効果的。特に犬。)

そしてついに(以下ネタバレ)夫の遺体が発見され、そうなると兄弟が犯人に決まってるわけなので、妻は兄弟の家へ行き、母親に、「あなたも私と同じようにひとりぼっちになる」と告げる。そして、そのあとに言う言葉が、田舎で孤立した女同士の連帯を感じさせる言葉なのだ。

悪役の兄弟はもちろん、フランス人の夫にも私は共感できなかったのだが、この最後の女たちの姿に真実を垣間見た気がした。