2013年1月21日月曜日

ジュリエッタが先か、アントニアが先か?

パリ・オペラ座のライブ・ビューイングが2月から東京と大阪の映画館で始まります。
公式サイト
http://www.opera-yokoso.com/

オペラとバレエ、計8作品の舞台が美しい映像で見られます、ということで、新しい方のオペラ座、オペラ・バスティーユで上演された「ホフマン物語」の試写会に行ってきました。

オッフェンバックのオペラ「ホフマン物語」は私の大好きなオペラで、一時、ものすごくはまって、各種CDやレーザーディスク、ビデオを集めたり、借りて見たり、メトの「ホフマン物語」の日本公演を3回も見に行ったり、日本のバレエ団が上演したバレエ版を見に行ったりと、とにかくはまってました。
中でも好きなのは、「赤い靴」で有名な監督コンビの古いイギリス映画と、ロンドンのコヴェントガーデンで上演されたもののレーザーディスク(現在はDVD)、それに、メトの日本公演。CDはドミンゴの古い方。これらはすべて、第1幕のヒロインが自動人形のオランピア、第2幕が高級娼婦のジュリエッタ、第3幕が若い女性アントニアという順番でした。
が、いつだったか、ドミンゴの新しい方のCDだったと思いますが、第2幕がアントニア、第3幕がジュリエッタという、第2幕と第3幕を入れ替えたのがあったのですね。
というのも、「ホフマン物語」は実在の詩人で作家のホフマンを主人公にしたオペラですが、ホフマンが最初は自動人形を人間の女性と思って恋をしてしまい、次に高級娼婦にだまされて殺人まで犯し、最後に歌の才能を持ちながら、病のために声を張り上げて歌えない若い女性に恋をするが、彼女に死なれてしまう。そして、プロローグとエピローグでは、現在のホフマンが酒びたりで、ソプラノ歌手に恋をしているけれど、結局、その恋も失い、詩の女神に促されて詩人となる、という物語なのですが、第2幕で高級娼婦ジュリエッタにだまされ、決闘で殺人まで犯す、というようなことがあったら、そのあと、若い歌姫アントニアとの純愛は無理だろう、てなことがどこかに書いてあったのです(ドミンゴの自伝だった気がする)。だから、このオペラは第2幕がアントニアで、第3幕がジュリエッタの方が正解なのだ、と。
しかし、それまでずっと、ジュリエッタ、アントニアの順番でオペラを楽しんできた私は、この新しいCDにはどうしてもなじめませんでした。なぜなら、このオペラは音楽的にはアントニアの幕の方が優れているからです。幕が開いたすぐあとのアントニアのアリア、そして、最後にアントニアが死んだ母親の声と、そして、悪魔の化身であるミラクル博士に促され、声を張り上げて歌うと死んでしまうのに歌ってしまって死ぬ、そのクライマックスの三重唱はこのオペラの中では特に優れた音楽だと思います。ここで盛り上がって、そのあとすぐエピローグに行ってくれた方が、音楽的にはよいのです。
でも、確かに物語的には、アントニアが先でジュリエッタがあとの方が自然です。心を持たない自動人形に恋をしたホフマンが、次には心を持ち、音楽の才能のある若い女性と純愛し、そして最後にお金や宝石にしか興味のない、人間的な心を持たない高級娼婦に恋をし、だまされ、その結果、酒びたりになり、その後、やっと、詩の女神に促されて詩人になる、という方が、確かに物語的には自然ではあります。また、アントニアの幕の最後の三重唱は主役のホフマン抜きですが、ジュリエッタの幕では最後の重唱ではホフマンも加わっています。
そんなわけで、1990年代頃からだと思いますが、「ホフマン物語」はアントニアが第2幕、ジュリエッタが第3幕に変わったようで、今回のオペラ・バスティーユの公演も、アントニア、ジュリエッタの順番です。
結論から言うと、映像があると、アントニアが先でジュリエッタがあとでも違和感はありませんでした。CDのように音楽だけだと、音楽的に盛り上がるアントニアのあとにジュリエッタだと少し盛り下がる感じがありましたが、ライブ・ビューイングでは第2幕のあとに休憩があり、そこで一息ついて第3幕なので、気持ちが切り替わるし、映像があると、音楽以外の面も大きな要素になるので、この展開もいいか、と思えました。
この公演は演出も面白く、服装は現代というか、20世紀後半くらいでしょうか。第1幕のオランピアのシーンでは、自動人形を大きなラジコンで操縦しています。また、この幕はエロチックな演出もかなり入っていて、オランピアは動くダッチワイフという感じでした。第2幕アントニアのシーンは舞台が2階建てで、最後に1階がオーケストラになったのはびっくり。悪役のミラクル博士が指揮者になって、彼がすべてを操っていたということを示しています。そして、第3幕は劇場の客席の座席を動かしてヴェニスの運河に仕立てるという演出。私が見たコヴェントガーデンのLDも、メトの公演も、19世紀そのままの世界だったので、新鮮でありました。
歌手はみんなうまくて、これも大満足です。ホフマン役、4人の悪役を1人で演じる歌手も私の頭の中のイメージどおり、他の歌手もすばらしいですが、ヒロイン役ではアントニアのソプラノが光り輝くような美声で、情感もよく表現されていて、やっぱり、アントニアが最後の方が、とまたしても思ってしまうくらいでした。
ジュリエッタの幕では、このオペラでは一番有名な「ホフマンの舟歌」がメインテーマなのですが、この歌はどっちかというと間奏曲的な歌で、音楽的にはこの「舟歌」は第2幕の方が合うのですけどね。
というわけで、やっぱりアントニアの幕が最後の方が、とは思うのですが、このライブ・ビューイングの公演自体は本当にすばらしく、音楽的にも映像的にも大満足でした。