2014年8月13日水曜日

アイ・フランケンシュタイン(ネタバレあり)

メアリ・シェリーの小説「フランケンシュタイン」からヒントを得た新しいフランケンシュタインもの、ということで期待した、と言いたいところだけど、RottenTomatoesでの評判があまりにも悪いので、全然期待していなかった。
ただ、一応、「フランケンシュタイン」だから見ておかねばならないな、と思っていたら、試写状が来たので、見に行った。
物語は原作小説の最後から始まる、といっても、実際は原作とは違うところもあるのだけれど、とにかく、自分を造った科学者ヴィクター・フランケンシュタインが亡くなり、怪物は彼を埋葬する。と、そのとき現れたのが天使軍団と悪魔軍団。この天使と悪魔の争いに巻き込まれた怪物は、天使軍団の女王からアダムと名づけられ、協力を求められる。が、怪物はそれから200年間、世間とは隔絶した世界でひきこもり。が、200年後の現代、人間の世界に戻った怪物(不老不死なのだ)は、再び天使と悪魔の戦いに巻き込まれる、というお話。
原作を知る人ならご存知のように、フランケンシュタインの造った怪物には名前がない。怪物は原作ではモンスターではなくクリーチャーと呼ばれ、それはこの映画でも踏襲されている。
で、怪物はフランケンシュタインが生んだ息子のようなものだから、姓はフランケンシュタインでおかしくないよなあ、と思っていたら、天使軍団の女王からアダムと名づけられた怪物は、最終的にはアダム・フランケンシュタインとなる。
最後にフランケンシュタインという姓を手に入れるところがいいのだが、日本語の解説では終始、彼をフランケンと呼んでいるのだ。うーん、映画の趣旨とは違う。あと、字幕では科学者フラケンシュタインを博士と書いているが、フラケンシュタインは博士ではない(博士号を取っていない)。映画でも英語のセリフにはドクターという言葉はない。まあ、字幕だと字数の問題があるので、しょうがない部分はあるのだが。あと、ビル・ナイ扮する悪魔のリーダーを、魔王の王子としてるんだけど、英語はデーモン・プリンスで、このプリンスは王子じゃないのだけどね。ちなみに、プリンス・オブ・ダークネスといえば、悪魔のことです。まあ、ビル・ナイのリーダーはサタンではなく、サタンの手下だとは思うが。デーモン・プリンスで魔王じゃないのかな?
怪物がアダムと名づけられるのは原作を知っていれば納得なのだけど、原作ではフランケンシュタインの日誌(実験ノート)を読んで自分の来歴を知った怪物が、神はアダムを造って楽園に住まわせ、イヴという彼女まで造ってやったのに、フランケンシュタインは自分を造ったあと放り出してしまった、本当なら自分はアダムのはずなのに、と怒るのだ。で、怪物がなんでアダムとイヴの話を知っているかというと、その前に森の中でジョン・ミルトンの「失楽園」を拾って読んでいたから。「失楽園」は聖書の創世記をもとにした叙事詩で、神に挑戦するサタンがイヴに知恵の木の実を食べさせ、それを知ったアダムがイヴへの愛から自分も木の実を食べて楽園を追われる、という物語。アダムとイヴの物語であると同時に、神に挑戦するサタンの物語でもある。怪物は、本来ならアダムであるはずの自分が迫害されたことに腹を立て、サタンになってやる、と決意する。その一方で、自分にとってのイヴを造ってくれとフランケンシュタインに頼むが、拒否され、さらに復讐鬼に、というのが原作。
そんなわけで、怪物がアダムと名づけられるのは非常にもっともなのだ。
それから200年たって、怪物ことアダムが再び天使と悪魔の戦いに巻き込まれ、ここからアクションがいろいろ始まるのだけど、アクション中心で脚本が弱い。
天使軍団と悪魔軍団の戦い、その両方にねらわれるアダム、そして悪魔軍団が女性科学者を使って、かつてフランケンシュタインがやったような人造人間製造を目論み、そのためにフランケンシュタインの日誌(実験ノート)と怪物(アダム)を手に入れようとする、という陰謀が繰り広げられる。
その若い女性科学者と頭の禿げた中年科学者と、デーモン・プリンスのビル・ナイがなんとか事件の誰かに似ている?という話はやめておきます(いや、別に似てないですが)。
しかし、フランケンシュタインの実験ノートを読んだら、人造人間製造のときに電気ウナギを6匹使ったとか書いてあるのが笑える。原作では電気を使ったとは書いてないのだが、原作の最初の方に雷の話が出てきていて、当時のガルヴァーニ電流などを考えると、電気を使ったに違いないと想像されるので、ボリス・カーロフの古い映画からケネス・ブラナーの新しい映画まで、怪物製造には電気が使われることになっている。でも、これまでは雷だったのだが、電気ウナギとは。
それはともかく、脚本があまりにも工夫がないので、話はあまり面白くないのだが、ヴィジュアルはなかなかにすばらしい。
脚本的に惜しいなと思うのは、最初にアダムと名づけられた怪物が、物語が進む中でフランケンシュタインの日誌(実験ノート)を読み(原作ではすでに読んでいるのだが)、それで自分のアイデンティティがわかって、最後にアダム・フランケンシュタインとなる、という設定が、もっと工夫すれば面白くなるのにな、と思うからだ。
怪物役はアーロン・エッカートで、原作の怪物とは違って二枚目だが、魂がまだない、ということになっていて(これも原作とは違うのだが)、この魂を得ることがアイデンティティの獲得と重なっているので、ここをもっと脚本でうまく描けていたらと思う。
アーロン・エッカートは「ダークナイト」のトゥー・フェイスが有名だが、俳優としてはかなり前からいろいろな映画に出演していて、二枚目なのに今一つ芽が出ないな、と思っていた人。地味な文芸物の二枚目とかではイマイチ、パッとしなかったのか、トゥー・フェイスやこの怪物のような、崩れた二枚目みたいな方がよいのかもしれない。
とにかく、「フランケンシュタイン」好きなら一応見とけ、って感じの映画。
あ、あと、天使軍団の人々がガーゴイルという名前なのだが、ガーゴイルというのは西洋の大聖堂のような大きな建物の屋根にある、怪物などの彫刻のついた雨どいのこと。バットマンもこのガーゴイルふうにビルの上に立っていたりするが、高いところから見下ろしている怪物や天使ですね。天使軍団がガーゴイルというのは映像でばっちり見せてくれます。