2013年9月20日金曜日

老いらくの恋

老いた男が若い女に恋をする、という映画を今週は2本も見てしまった。
「ベルエポック」がアカデミー賞外国語映画賞を受賞したスペインのフェルナンド・トルエバ監督による「ふたりのアトリエ ある彫刻家とモデル」は、ジャン・ロシュフォール演じる老いた彫刻家が若い女性と出会い、作品を仕上げていく。
舞台は第二次世界大戦中、ドイツ占領下のフランス。主人公は実在の彫刻家がモデルらしいが、彼が若い女性をモデルに彫刻を仕上げる間に、いろいろな人が現れ、そして去っていく。
若い女性を連れてきたのは彫刻家の妻(クラウディア・カルディナーレ)で、ミューズを失っている夫のために、夫好みの肉体を持つ彼女を町で拾って連れてきたのだ。
しかし、この女性は実は対独レジスタンスの活動もしていて、仲間の青年がやってきて彼女と同居したりする。彫刻家は妻がいるし、若い彼女に言い寄ったりはしないが、彼女が青年とむつまじくしているのを見ると嫉妬にかられる。
彫刻家には美術研究家のドイツ軍将校の知り合いがいて、彼も彫刻家のアトリエを訪れ、フランス文学や美術の話をして帰る。将校はロシア戦線へ行く予定なので、生きて帰れないかもしれない。
その後、今度はレジスタンスの青年が去り、そして妻とモデルの女性も旅立っていく。ひとり残された彫刻家が完成した彫刻を庭に出すラストに衝撃が走る。
モノクロの映像が、ロシュフォール演じる彫刻家のストイックさにぴったりであり、また、色を塗らない彫刻という芸術にも合っている。

ジュゼッペ・トルナトーレの「鑑定士と顔のない依頼人」では、ジェフリー・ラッシュ演じる鑑定士にしてオークショニアが鑑定の依頼をしてきた若い女性に恋してしまう。
ロシュフォールの芸術に賭けるストイックな彫刻家に比べ、こちらの鑑定士は同じ美術品を扱う職業なのに、なんというか、ストイックとは程遠い。
だからといって別にスケベではなく、むしろ逆で、あまりに潔癖で女性と恋もできないまま年をとってしまった初老の男。でも、ストイックとはまったく別なんだなあ、と気づくのは、「ふたりのアトリエ」を見た直後だからだ。
主人公の鑑定士ヴァージル・オールドマン(オールドマンて、文字通り老人)は、両親を失い、家具や美術品をオークションで売りたいと思っている若い女性クレアから相談を受ける。しかし、クレアは彼の前に姿を見せない。なぜなら、彼女は広場恐怖症、対人恐怖症で、外に出られない、人に会えないからなのだ。オールドマンは彼女の屋敷に行き、鍵を預かり、鑑定をする。そして、彼女の姿をこっそり見た彼は、彼女に恋をしてしまう、というお話。
オールドマンは非常に成功した鑑定士・オークショニアで、しかも価値のある美術品を価値がないように見せかけて安く手に入れたりと、ずるいこともしている。秘密の部屋には女性の肖像画が多数飾ってあり、彼は生身の女性ではなく、二次元の女性に囲まれて暮らしている(要するに、日本のアニメオタクとかと同じですな)。
彼は非常に潔癖で、食事をするときも手袋をしたまま、携帯電話もハンカチをかぶせて使う。そんな彼が、対人恐怖症で外に出たがらない女性クレアとの間に共通点を感じ、お互いに惹かれあうが、しかし、クレアの行動はどこか変、ということで、まあ、最初から彼女が怪しいわけです(このくらいはネタバレにならんだろ)。
オールドマンが親しいのは元画家でオークションの不正仲間の男と機械に強い青年。あとはあまり人付き合いもしていないような感じ。クレアの屋敷の目の前にカフェがあって、そこにやたら数字に強い奇妙な女がいるが、登場人物としては彼女が謎めいて面白い。
正直、この手の映画を見慣れている人なら、途中でだいたいネタがわかってしまうと思う。私もたぶんこうだろうと思ったら、そのとおりだった。ただ、一番最後にわかるネタは気づかず、やられた。
映画には絵画だけでなく、18世紀の自動人形(字幕は機械人形だったが、自動人形の方が一般的だと思う)らしきものが出てきたり、ラストのプラハのカフェが時計の歯車を巨大にしたようなインテリアだったりと、スコセッシの「ヒューゴの不思議な発明」の影響を受けたのかな、と思うところがある。ちなみに、オールドマンの友人を演じるドナルド・サザーランドが主演したフェリーニの「カサノバ」にも自動人形が登場する。
というわけで、面白い映画なのだが、見終わってどうもすっきりしないのは、オールドマンという男が同情すべき人なのかどうかがよくわからないからだ。潔癖症だがずるいこともし、女性の肖像画に囲まれて暮らす男が若い女性にメロメロになるのを、同情して見るべきなのか、皮肉に見るべきなのかわからないのだ。また、他の人物も、何を思ってこういうことをするのか、イマイチわからない。登場人物の誰の立場になっても、カタルシスが感じられないのだ。