2021年6月5日土曜日

ある大学教授のツイッターについて

 無知に驚きあきれてしまったのだが、この人のセクシズムその他の悪癖について批判する人が多いけれど(呉座氏同様、かばう研究者も多いのがなんだかなあ)、この教授の一連のツイートが彼のひどい無知をさらしていることを指摘する人はあまりいないようなので、一応、書いておく。





このオッカムという人はツイッター界隈ではそれなりに人気がある人のようだ。調べると、現在は帝京大教授でアメリカ政治が専門。

出身は北海道稚内で、確かに辺境の地である。

根室や網走もかなり辺境っぽいが、稚内は本当に辺境の地と感じた。観光地としてはすばらしい場所だし、住んでいる人にはよい町なのだろうと思う。ホテルに一泊したが、とても感じがよかった。

帝京大HPの教員紹介を見ると、高校まで稚内、その後北大に進学し、大学院を出て助手になり、その後、北海道長万部の東京理科大で教員をつとめ、4年前に帝京大に赴任した。

検索で出てくるツイッターを見ると、北海道の大学で上司からひどいパワハラを受けていたらしい。この人の吐く他人に対するひどい暴言は、この上司のパワハラの暴言を受けた結果かもしれないとさえ思う。

また、母親が父親に対してモラハラをしていたようで、本人も結婚後、妻からモラハラを受けて離婚したようだ。(以上、全部、ご本人のツイッターに書いてあること。)

こうした過去を踏まえて、オッカム氏のツイートを読む。

上の一連のツイートは最近発せられたものだが、オッカム氏が北大助手時代の経験である。

東京で学会をするとき、同時通訳が必要になり、数人派遣してもらったら、みんなすごい学歴の女性だった、という話だ。

ここでまずわかるのは、オッカム氏が通訳という職業を蔑視していることである。

まず、通訳くらい研究者ならできると勘違い。それは無理とわかり、同時通訳を派遣してもらい、プロはすごいと驚く(ここまではよい)。

しかし、同時通訳の女性たちが(ここからはオッカム氏の想像だが)金持ちの男性と結婚していて、家事育児を人任せにできる立場にあり、余暇に通訳をしている、専業主婦のセレブバイトだ、と決めつけている。

オッカム氏から見ると、スーパーのバイト主婦も専業主婦になるようだ。要するに、正社員、正規の職業として雇われた主婦だけが働く主婦ってわけだ。

オッカム氏は辺境の生まれとはいえ、大都会の札幌の北大ですごし、その後も大学教員として研鑽を重ねてきているはずだが、なんでこんなに世間知らずの無知なの?

ここで私の知っている通訳の世界を話そう。

かつて、一時、産業翻訳の会社に翻訳者として登録していたことがあるが、そこは上智大卒の通訳者の女性が仲間と作った会社だった(彼女が社長)。

今から40年くらい前、通訳者はフリーランスで仕事をしていたが、通訳の仕事中に仕事の依頼の電話があると受けられない。携帯はおろか留守電さえない時代だった。そこで、通訳者たちで会社を作り、仕事の電話は会社で受けて、所属する通訳者に配分することを思い付き、作った会社だったという(社長から直接聞いた)。

そもそも通訳者というのはフリーランスで仕事をするのである。この会社でも通訳者や翻訳者は登録をするので、社員になるのではない。彼らは自由業である。

この種の自由業は結婚してからも続けやすい。夫が高収入である必要もない。

そして、通訳者、特に同時通訳者というのは非常に高いスキルを必要とするから、ICU(国際基督教大)、東京外語大、上智大あたりを卒業した女性が多い(という印象)。

なお、これらの大学に比べ、オッカム氏の北大が低いなんてことは全然ない。むしろ北大の方が旧帝大だから格が上ではないか?

東大出もいた、他大学出身でも駒場を修了していた、と書いているが、そりゃ東大もいれば駒場の東大の院卒もいるだろう。

ちなみに、当時は駒場の東大の人文系の院はアカデミズムに進むには不利だった。通訳になる勉強の一環として駒場の院に進学した人が、そのかたわら通訳の資格を取って通訳になったと思われる。

「キャリアをガリガリ重ねることもなく」とオッカム氏は書いているが、無知もはなはだしい。

研究者が翻訳をすることは非常に多いが、通訳は研究者とはまったく違う世界である。通訳が「ガリガリキャリアを重ねる」としたら、それは国連の通訳になるとか、そういう出世志向だろうが、通訳したいだけなら普通に仕事として通訳すればいいわけで、キャリアを重ねるとか、ほんと、無知。そもそも、研究者だから通訳くらいできるだろう、と考えていたのが、研究者=通訳と勘違いしているわけで、その勘違いの連続でこういう無知をさらしている。

オッカム氏が北大助手だったのは30歳になるかならない頃だろうから、当時はそういう高学歴女性に嫉妬し、彼女たちを妻にできる高収入男性を勝手に想像して嫉妬し、自分のような辺境出身者にはとうてい得られない特権だと考えたのはまあ、しかたないとして、それから20年近くたち、教授になった今も当時の考えのままとは無知もはなはだしい。

しかも、セレブバイトに代表される差別発言を指摘されると逆ギレしているのだから始末が悪い。

北大の助手なら研究職への就職は十分可能なはずだが、それでも就職できないかもしれないという不安はあっただろう。それで、彼女たちの夫は研究者かもしれない、彼らは自分と違って優遇された研究者なのだろう、と勝手に考えて嫉妬するのも、助手時代ならまだわかる。が、教授になった今もそのときからまったく考えが変わっていないのだ。

オッカム氏はツイッターで、妻は自分を研究職の地位でしか見ていなかった、と書いていたが、彼自身が学歴が高く優秀な女性を妻にできる男になることしか頭にないように見える。結婚に失敗したこと、母や元妻のモラハラのせいでそういう考えになり、女性差別意識を持ってしまったのなら、理解できなことはないが。

北大の学部から東京の大学院へ行くのは難しかったのかとツイートしている関西の非常勤講師がいるが、それはない。東大や京大の院には他大学の学部出身者が大勢いる。北大の院から助手というのも非常によいコースだ。ただ、おそらく次の大学なのだと思うが、職場でのパワハラも氏をゆがめた原因だろう。大学を替わるというのはなかなかむずかしく、首都圏でもパワハラに悩みながらやめられないでいる人は少なくないと思う。

呉座氏と違い、オッカム氏は自分語りをしているので、いろいろ透けて見える。

オッカム氏の発言は許せないが、首都圏にいたらもっと視野を広げて、ああいう考えに凝り固まることはなかったかもしれないと思うと、首都圏育ちの私は心が痛むし、オッカム氏が辺境出身だからセレブ女性やその夫を恨むのと、女だから就職を拒まれた私が就職できた男性だけでなく女性も恨んでいるのとは根っこは同じだと感じている。