2010年10月13日水曜日

スーピー・キャンベル

 削除してしまった前のさーべる倶楽部のメモ帳に書いていた、ブライアン・グルーリーのホッケー・ミステリー、「Starvation Lake」を引き続き読んでいるのだが、100ページを超えたあたりからあまり興味が持てなくなってしまっている。なぜかというと、ホッケーの話じゃなくなったから……って、おいっ!
 ところで、この小説には主人公の親友でスーピー・キャンベルという人物が登場する。例のメモ帳にも書いたけど、スーピーというのは元バッファロー・セイバーズで、現シカゴ・ブラックホークスのブライアン・キャンベルのあだ名だ。キャンベルといえばスープ、なのでスーピーというあだ名がつき、セイバーズの掲示板で普通に使われるようになり、セイバーズの実況でもアナがキャンベルをスーピーと呼ぶようになり、UFAで他チームに移ったあともこのあだ名で呼ばれている。
 彼はいわゆるオフェンシヴ・ディフェンスマン、ディフェンスだけどオフェンスに強く、ゴールが多い選手だ。そして、キャンベルといえば、ファンの記憶に残るのは、「spin o'rama」――ゴール前でくるっと一回転してゴーリーにフェイントをかけ、ゴールしてしまう技。
 「Starvation Lake」の最初の100ページには主人公とスーピーが少年ホッケーチームの選手だった頃の思い出が書かれていて、それを読むと、明らかに、著者はブライアン・キャンベルを念頭に置いて書いている。それも、たぶん、セイバーズ時代のキャンベルだ。キャンベル同様、小説のスーピーもオフェンシヴ・ディフェンスマンで、みごとなspin o'ramaでゴールを決める。また、彼はコーチからヤワなやつと言われるが、それもキャンベルと同じ。おまけに、主人公とスーピーの少年ホッケーチームのチームカラーが、セイバーズと同じブルー・アンド・ゴールドだ。
 ブルー・アンド・ゴールドというのは、青と黄色で、1970年に創設されたセイバーズがジャージにこの色を採用したのは、もともとバッファロー市の色がこの2色だったからだけれど、それと同時に、近場のトロントのメイプルリーフスが青と白で、ブルー・アンド・シルヴァーと言われていたので、シルヴァーより上のゴールドを採用することで、リーフスを超えるぞ、という意気込みを見せたのだった。青と黄色といえばアジアリーグのアニャンハルラもそうだけど、NHLでブルー・アンド・ゴールドといえば、それはセイバーズであり、ブルー・アンド・ゴールドの血を流すといえば、それはセイバーズの選手が必死で戦うという意味なのだ。
 肝心の小説の方だけど、370ページの原書のうち、まだ140ページくらいで何か言うのはよくないのだけど、なんというか、これ、結局、ホッケー・ファンのための小説ではないんじゃないかと思い始めたのだ。著者のグルーリーはホッケー経験者で、今もホッケーをするようだけど、以前読んだホッケー小説やホッケー・ノンフィクションに比べて、ホッケーの描写があんまり面白くない。スーピーがディフェンスだとわかるのは、一箇所、ディフェンダーと書いてあるところだけで、そこがなければスーピーはフォワードだと思うだろう(つか、私はフォワードだと思って読んでいた)。つまり、ディフェンスの描写がないわけ。試合の描写も、こう言っちゃなんだけど、「プライド」っぽい。要するに、ホッケーを知らない人にもわかるようなところしか書いてないのかな、と思った。
 で、先日、ついに翻訳(「湖は餓えて煙る」)を見つけ、少し立ち読みした。ホッケー用語の多くは英語をそのままカタカナにしているので、思ったほど違和感はない。ただ、ホッケーをすべてアイスホッケーと書いていたり、ゴーリーがキーパーとか、ウィンガーがウィングとか、スケートの刃とか、別に間違いじゃないんだけど、個人的に違和感があるところはある。そして、やっぱり、セイバーズ・ファンはこの小説は原書で読まなきゃいかん、と思ったのは、上にあげたスーピーに関する言葉だ。spin o'ramaをフルスピンて訳しているんだけど、ホッケーでフルスピンて、聞いたことないです。原文では360度のスピン・オ・ラマと書いてあるのだが、訳は三百六十度のフルスピン。うーん、カーレースで車が一回転するやつか。確かにspin o'ramaは日本語になっていない言葉で、でも、ホッケー・ファンの間では英語のまま普通に使われている。ブログのタイトルやハンドルネームにしているホッケー・ファンもいるくらい有名な言葉。でも、翻訳だとフルスピンなのか。もっとも、著者も、spin o'ramaだけで通用するのに、360度の、とつけているところが、ホッケー・ファン以外に配慮しているので、どっちもどっちかもしれない。
 また、翻訳ではブルー・アンド・ゴールドが青と金色となっているが、前に書いたように、これは青と黄色が正しい。私ならブルー・アンド・ゴールドとそのまま使うけどね。とりあえず、こういうところを気にしない人なら翻訳で読んでもいいかもしれない。(実はもう1つ、原文と比べて違和感バリバリな部分があるのだけれど、それはホッケーとは無関係だし、編集の方針かもしれないので、ここでは書きません。)
 そんなわけで、ホッケー小説としてはイマイチかな、と思い始めているけれど、ミステリーとしてはこれから面白くなるかもしれないので期待している。てか、期待するしかないのだよ。だって、「Starvation Lake」と一緒に注文した続編「Hanging Tree」が昨日、日本のアマゾンに届いたという連絡が入ったんだから。

セイバーズ時代のキャンベル(練習着)


チーム創設40周年を記念する今季のサード・ジャージ。胸にバッファローと書いてある。


原書