2012年12月26日水曜日

天使の分け前

目の充血が治らないので、プールは我慢していますが、映画は我慢していません。
で、今日はケン・ローチの新作「天使の分け前」。
例によって、イギリス・スコットランドの貧しい若者たちの話です。幼い頃から暴力が支配する世界で育ち、少年院にも入っていた経験のある若者が、親の代から犬猿の仲という相手とけんかして過剰に暴力をふるい、刑務所行きにはならなかったが、社会奉仕を義務付けられ、ある親方のところで働く、という物語。
若者には恋人がいて、子供が生まれる。真人間になろうと決意するも、就職もままならない。恋人の父親は若者と同じような境遇の出身で、今は金持ちになり、中流の地域に引っ越しているが、娘がつきあっているその若者の行く末がわかっているので、なんとか別れさせようとする。あるときは暴力を使い、あるときは金で別れさせようとする。そんな窮地に陥った若者を助けるのが親方。彼は同じように罪を犯して社会奉仕している若者たちをウィスキーの蒸留所の見学に連れていく。
ケン・ローチというと、イギリスの貧困や移民問題などを辛口で描く作家で、見ていてつらいものが多いのだが、この映画はコメディタッチで明るい。後半はウィスキーで起死回生をはかる若者たちの冒険になっていき、最後もすてきだ。「天使の分け前」とは、樽で熟成されるウィスキーは毎年2パーセントずつ蒸発していき、それは天使の分け前と呼ばれている、ということ。主人公はその天使の分け前を掠め取り、なんとか自分たちの生きる元手にしようとしている。そして、「天使の分け前」という言葉がなんともうれしい言葉として出てくる結末近くのシーン(これはネタバレなしで)。
イギリス映画にはケン・ローチやマイク・リーのような庶民や貧しい人々を主役にした名作を作る監督がいて、彼ら以外にもそういった良質の映画を作る監督が何人もいる。若者の失業者が100万人を超えたという国で、貧しい若者や子供を主人公にしたシビアな映画、あるいは心あたたまる映画が次々と生まれているのだが、こうした映画は公開当時は話題になっても、いつのまにかレンタル店の片隅に追いやられ、セルDVDの売り場ではめったに見ることもなくなる。DVD売り場で現代のイギリス事情を描く映画を探しても、上流中流の人々を描く文芸大作か、昔の名画くらいしかないのが残念だ。
それはともかく、この「天使の分け前」はほのぼのとして楽しい映画。ウィスキーが醸造されるスコットランドの風光明媚な場所も登場し、いつものイギリス貧困層の映画とは違う雰囲気もある。