2016年8月6日土曜日

「最悪」最高

奥田英朗の長編「最悪」を読む。
これが最高。面白い。
虐げられた弱者の怒りが爆発する過程がしっかり書き込まれていて、最後に爆発するとすっきり。
奥田の描く人物って、どうしてこんなに人がいいんだろうと思うけど、それがあるから陰惨にならず救いがある。
今までは伊良部シリーズしか読んでなかったので、これからどんどん読もう。
ただ、解説に、3人の人物の話を交互に描いていく手法を映画的と書いていたけど、これは19世紀にサッカレーの「虚栄の市」やトルストイの「戦争と平和」があって、もともとは小説の技法。映画が小説を模倣したと見るべき。
また、解説者はこの手法を群像劇と呼んでいるが、群像劇ではない。
アルトマンの群像劇とこの手法を混同しているようだ。
最近の映画でいえば「スポットライト」が群像劇、と言えばわかると思う。

ブックオフで108円の本をまとめて買って読む、ということを先月からやっているけれど、奥田の「野球の国」、恩田陸の「図書室の海」はよかったけど、そのあとはずっとハズレだった。
角田光代の「三面記事小説」はやはり三面記事の事件をふくらますだけで意外性が少ない。ただ、この作家が家族の濃い関係を描くのがうまいことはわかった。
加納朋子の「モノレール猫」は小説としてのレベルの低さにがっかり。それでもこういう口当たりのいい、底の浅いものが受けるというのはわかるが、私にとっては時間の無駄。
最悪は中山七里の「さよならドビュッシー」。火事で全身やけどを負った16歳の少女がピアノコンクールで優勝するまでの話に殺人事件がからむというミステリーだが、やたら説教くさい。しかも、最後のどんでん返しで、ああいう説教してたお前はなんなんだよ、になるという最悪の展開。後味悪いったらない。なのに人気があるのか。このミス大賞は「四日間の奇蹟」も人の作品のパクリでひどかったけど、なぜかそういうレベルの低い受賞作が人気がある。
そのあとまたブックオフへ行ってまとめ買い。
乃南アサの短編集「悪魔の羽根」。これまたがっかり。
乃南アサは「凍れる牙」が面白かったのだが、主人公の女性刑事が自立した女性だったので、そういう女性を描く人かと思ったら、この短編集のヒロインが男に頼る女ばかりでうんざりした。
小説としてはうまい作品もあったけれど、半分くらいは面白くなかった。

というところで奥田の「最悪」を読んで、これこそ最高!と思ったのでした。