2016年8月26日金曜日

試写のハシゴと3回目の「ルドルフ」

水曜日は久々、六本木で試写のハシゴ。
木曜日はシネコンで3回目の「ルドルフとイッパイアッテナ」。
さすがに3回も見る必要はないんじゃない?とは思ったのですが、前回見た後、やはり後ろ髪をひかれるというか、また見たいという気持ちが強くて、出かけました。
さすがに前半はもう、これで打ち止めにできるかな、と思ったのですが、後半になるとどんどん涙腺がゆるんできて、最後はまた見たいという気持ちに。
これって、たぶん、昔だったら入れ替え制ではないので、そのまま座ってもう1回見て、それで満足できたのだと思うのですが、入れ替え制で出なければいけない、というのが後ろ髪になってしまうような気がします。
見るごとに発見があり、新しい感想があるので、何度見ても損はないのですが。
今回気づいたのは、昼から夜とか夜から朝とかいった1日の光の変化。1年の季節の変化も美しいけれど、この1日の光の変化もかなりうまいです。
シーンと音楽もよく合っていて、特に好きなのが、ルドルフが岐阜へ行くためにトラックに乗り、仲間との別れをかみしめたあと、きっと目を見開くシーンで、ここで音楽ががらっと変わり、シーンの雰囲気も変わるというところ。イッパイアッテナと一緒に覚えた地名が目の前に次々と見えてくるというシークエンスもいい。
あと、ルドルフが口を開けたときに小さい白い歯が見えるのがかわいいんですよ。
ルドルフが岐阜から帰ってきて、イッパイアッテナと再会したとき、張りつめていた糸が切れるみたいに号泣して、それをイッパイアッテナが黙って見ているシーン。ここでイッパイアッテナはルドルフが何を経験したか、言わなくてもわかったんだな、と思いました(原作ではイッパイアッテナは最初からそれを予想していたと書いてある)。
イッパイアッテナがケガをしたとき、お互いにわかっているのに彼とルドルフが嘘を言ってごまかすシーンとか、ここは原作どおりなんだけど、言わなくてもわかる、みたいなあうんの呼吸があるんですね。これはけっこう日本的かもしれない。
というわけで、4回目も行きそうです。
映画館は相変わらずガラガラで、1回目は30人くらい、2回目は10人くらいで、今回は一桁だったみたい。これでよく続映してるな。来週もまだ1日5回くらいやるみたいだし。

さて、試写で見たのはジョン・ル・カレ原作の「われらが背きし者」と、アトム・エゴヤン監督の「手紙は憶えている」です。
ル・カレの翻訳は長年、早川書房から出ていたけれど、途中で集英社に移り、この「われらが背きし者」はなんと岩波書店。翻訳者もミステリーの人から大学教授に変更。やっぱり岩波は大学教授じゃないと翻訳出せないのか。岩波に移った時点で、ル・カレはミステリーではなく純文学にします、と宣言したようなものか。翻訳出版権料とか、翻訳業界とかの大人の事情をなんとなく想像してしまいます。
原作は読んでいませんが(例によって難解らしい)、映画は非常にわかりやすいです。わかりやすい分軽い感じになってますが、最後は一度は悪が勝ったように見えて、そのあと逆転が、という感じ。原作はもっと暗いかもしれません。役者はうまい人がそろっているので、そこそこ見応えはあります。
「手紙は憶えている」はアウシュヴィッツの収容所の責任者だったドイツ人が身分を偽ってアメリカに住んでいるので、収容所の囚人だった老人2人が復讐を試みる、という話。1人は車椅子で自由に外に出られないので、もう1人の老人が彼の指示に従ってそのドイツ人を探すが、彼の方は認知症を患っているので、物忘れがひどい、という設定。
最後の5分間でどんでん返しがある、とプレスやチラシに書いてあるのですが、そのどんでん返しは最初から予想がついてしまいます。むしろ、注目すべきは主人公が旅の過程で出会う人々。
復讐すべき相手は名前しかわからないので、その名前の老人を次々と訪ねるのですが、ある者は戦争中はアフリカ戦線にいたが、戦後になってホロコーストの事実を知り、ショックを受けた、と言う。別の者はアウシュヴィッツにいたドイツ人だが、同性愛者なので収容所に入れられたことがわかる。さらには別の者は戦争中は十代の少年で、そのとき以来ナチスの信奉者になり、その影響で息子もナチ信奉者になっている。そして収容所の責任者だったドイツ人は家族にその事実を知られることを恐れている。そしてそのあと、意外というか、予想していたとおりのどんでん返しがあるのですが、それはともかく、ホロコーストの時代のドイツ人たちにもさまざまな人がいたことを示す内容になっています。特にアウシュヴィッツの責任者だったドイツ人が決して冷血な人ではなく、むしろ過去を葬り去ろうとしている普通の人間として描かれている点が興味深い。過去を葬り去るということはその「意外な結末」とも大いに関係しているし、原題の「Remember」もまさにその過去を思い出せと言っているわけです。ラスト、マーティン・ランドー演じる車椅子の男の目に浮かぶ涙も、単に復習に成功したからというだけではないように思います。
北米の名優クリストファー・プラマーとランドー、ドイツの名優ブルーノ・ガンツとユルゲン・プロホノフの4人の演技が映画をしっかりと支えています。