2017年8月29日火曜日

教員免許

教員免許というのは大学で必要な単位を取得して、教育実習をすれば自動的にもらえるから、教員免許を持っている人はかなりいると思う。
ただ、教員になるには公立なら採用試験に合格しなければならない(私立は縁故採用もあれば試験もある)。
そして、この採用試験に合格するのがむずかしい。
今と違って昔は教員採用の人数が多かったが、それでも中学高校は狭き門。合格する人は真剣に勉強していた。(小学校は人手不足の上、資格を持つ人が少なかったので狭き門ではなかったが、それでもしっかり勉強する必要があった。)
今は少子化の上、非常勤の割合が増えたので、本当に狭き門だと思う(小学校も含めて)。東大の博士課程でも高校の教員採用試験に毎年落ちている人がいる、というような話も聞く。
そのせいかどうかわからないが、私が非常勤講師をしている3つの大学のうち、偏差値50程度の某私大では、教員免許を与える学生の数を抑えろというような指示が文科省から来ている、みたいな話を聞いた。
別の大学、偏差値50以上の私大では、英語の成績が平均以上でないと教員免許が取れないことになっている。この大学は国語の教師になる人が多いことで有名で、逆に学科の関係で英語の教員免許は取れない大学だと思うが、なのに英語の成績で足切りされてしまうらしい。
なので、クラス指定の英語でレベルの高いクラスにされた学生から苦情が来るという話も聞いた。
レベルの高いクラスに割り当てられないように、入学時の英語力判定テストでわざと低い点を取る、という話もある。
2つの大学はどちらも昔なら普通に必要な単位を取って教育実習すれば免許が取れる大学であり、教師をめざす人も一定数いる大学だ。最近は入試がやさしくなっていて、レベルが落ちていると感じるが、それでもAO入試で入る人は少ない。
それでも教員免許を取っても教師になれる人は少なくなっている現状を考えると、免許をあまり出さないというのはリーズナブルなのかな、と思っていた。
が、私が非常勤講師をしている3つ目の大学(私大)で、それとは正反対のことが起きていることがわかった。

その私大は偏差値35しかなく、いわゆるFランと呼ばれる大学。定員割れが大きく、多くの学生がAO入試で入学している。
もともと幼稚園教諭や保育士の養成に力を入れてきた大学で、こちらは偏差値もやや高く、定員割れもなく、それなりに成果を上げているようだが、他の学部学科が使い物にならず、定員維持がむずかしいらしい。
経営学部を作って大学院まで作ったが、その後定員の半数しか応募がない状態になり、新しい学科を作ってそこで資格が取れるということで募集したが、こちらも応募が思ったほどないらしい。
そんなわけだから学生が減ったという理由で私の授業数も半分に減らされた。来年はどうなるかわからないので、新しい仕事を探さねば、と思いつつ、なかなかうまくいかない、というのが今の状況。
で、とりあえず、前期の授業が終わり、成績もつけたあと、事件は起こった。
私の担当科目は一般教養の自由選択で、資格とは何の関係もない授業だった。その科目とは無縁の学生も自由選択で来るので、内容はやさしく、試験もやさしく、採点も甘く、というようにしてやってきた(それでもどうしようもない点数で落ちる学生が多い。そういうレベルの大学なのだが、その一方でできる学生、授業に興味を持ってくれる学生も一定数いて、それでやめられないという面もあった)。
ところが成績を出したあと、不合格になった1年生の学生が再試験を申請した。
再試験は原則、卒業がかかっている4年生以上が足りない単位について申請するものなので、3年生以下の学生が再試験を申請したことはこれまで一度もなかった。
教務課によると、この学生にとってはその科目は資格のための必修なので、この場合はすぐに再試験が受けられるとのこと。
自分の科目が資格の必修になったなんて話はまったく聞いていないので驚いた。
どうやら今年度から英語の教員免許がとれるようになり、それで一般教養の自由選択の科目をその必修に加えたらしい。しかし、そういう事情の連絡はいっさいなし。

そこで浮かんだ疑問。

1 教員免許のための必修になったということを担当講師に連絡しないということは、必修にふさわしい授業、採点をしていないということで、そういう授業で免許与えていいのか?
2 この大学は英文科はないが、英文学購読のような授業はある。しかし、その授業は英文学作品を翻訳で読む、映画で見るのが主な内容。そういう授業しかないのに英語の教員免許が取れるって、どういうこと?
3 教員免許を与えるには教科教育法の授業が必要なんだが、そういう準備ができているのか?
4 そもそも、偏差値50以上の、過去に教員を排出した実績のある大学に教員免許をあまり出すなみたいなことを言うのに、こんなレベルの低い、カリキュラムの準備ができているのかどうかも怪しい大学に免許を出す許可を、文科省がなぜ出したのか?

1については文科省にチクりたいくらいだが、やめておく。その大学には文科省の天下りがいるはずだから、知らないわけないだろうしな。
2と3については今後変わるかもしれない、つか、変わらなきゃやばいだろう。
4についても理由はわかる。加計学園と同じだ。加計学園は経営する大学の多くが赤字で、誘致した自治体が破産の危機になっている。そういう大学は逆に次々と新しい学部学科を作って自転車操業になる。加計学園は首相のお友達なんで、獣医学部なんていう、必要ないと言われているものを作って、獣医の資格が取れるという売りで学生を集め、その授業料や入学料で火の車の台所をまわしていくのだろう。実際、加計学園は巨額の借金の返済が平成30年度から始まるから、30年度から獣医学部を開学して入学金と授業料で借金返済しないといけないのだそうだ。
加計学園の獣医学部については認可が先送りされそうだが、どこかで認可しないと借金が返せない、そうなると貸した方が困る、という図式で、いずれ認可はされるという予測がある。
しかし、開学したところで獣医は足りているわけだし、大学の施設もかなりひどいらしいし、まともな教授陣を集められるのかという疑問もあり、結局、入学料と授業料を出した学生が卒業しても就職もなく、という状態に陥る可能性がある。被害を受けるのは学生と、税金を使われた国民と自治体の住民という図式。
あと、貸したのが私学の団体らしいから、返せないと私学全体が被害を受けるっていうのもあるんだろうな。首相のお友達の忖度でここまでやってしまうとどっちに転んでも被害が出る。

で、こちらの英語教員免許を出せるようになった私大だが、こちらは首相のお友達でもないし、優遇ったってたかが知れてると思う。
加計学園に比べたらかわいいものだ。
とりあえず、いろいろな資格が取れるようにして延命をはかっているのだ。
延命しないと教職員も学生も困る。でも、このままどこまで行けるかはわからない。どこかで破綻するのではないか。それは同じような状況の他の大学も同じだろう。
文科省としては、とりあえず、今破綻しないように資格取得の許可を出すわけだ。その一方で、偏差値の高い大学には免許出すなって、どうよ?
最初に書いたように、教員免許なんていうのは採用試験に受からなければ役に立たないのだ。だから誰でも免許取れるようにしてもかまわないと思う。問題は、この大学では英語教員免許が取れます、と言って学生を集めても、実際はその資格は就職にはほとんど役に立たない可能性が高いということだが、まあ、そのくらいは学生もわかってるんだよね? でも、あのやさしい授業で、やさしい試験で、大甘の採点で、おまけしても合格できない点数取るような学生が英語の教員免許取るのはおかしいと思ったので、再試験は拒否した。
なお、私の授業では非常に優秀な成績の学生も何人かいたので、教員免許を与えてもいい学生は存在するのだろうと思う。

もうひとつ、気になるのは、最近、小中高校では非常勤講師の割合が増えていて、非常勤でも仕事は専任と同じ、なのに給料は安く、夏休みは給料なし、なのに夏休みも部活で出勤とか、それは奴隷だろう! と怒ってしまうような状態にあるらしい。
非常勤講師は採用試験に受かっていない人がなるので、教員免許を持っているが採用試験に受からず、でも教師をやりたいと思う人がなっているはずで、免許持っているだけの人がそういうふうに利用されているという現実があるようだ。もっとも、大学はだいぶ前から非常勤講師を安くこき使っているのだけど。労働者が貴族と奴隷に分かれていて、貴族の側の労働者は奴隷のおかげで自分たちの生活水準が守れているわけだから、こういう労働者の世界はかなり深刻だ。