2017年8月30日水曜日

「エル ELLE」@六本木ヒルズ(ネタバレあり)(追記あり)

現在、関東では東京都と神奈川県でしか見られないポール・ヴァーホーヴェンの新作「エル」。一番近いのは日比谷シャンテだが、あそこは椅子がつらい。傾斜がゆるくて前の人の頭が気になりそう。
ということで、六本木ヒルズに行くことにした。
六本木ヒルズは「エル」はレディースデーだけ広いハコで上映。画面も大きく設備も新しい、と思ってこちらで見ることにした。
六本木ヒルズは試写会で何度か行ったけれど、自腹で行くのは初めて。ちょっとウキウキして出かける。
が、困ったことが。

1 トイレが、トイレが、トイレがああああああ!!!
 ハコが上の階なんだが、エスカレーターのところに上の階のトイレは閉鎖中なのでこのフロアのトイレをご利用しろと。が、このフロアのトイレって、もぎりの先にしかないんだよ! チケット見せて入って用足すのだろうか? 上のフロアの上映途中でトイレに立った人いたけど、どうしたのだろう。
2 同じ列の誰かが貧乏ゆすりしていて、ずっと4D状態(画面は2D)。

というわけで、どこがおしゃれなんじゃ、六本木。

さて、映画ですが、ヴァーホーヴェンはハリウッドで映画化したかったようだけど、ハリウッド女優にはことごとく断られ、前から興味を持っていたイザベル・ユペール主演のフランス映画になった。
ま、それが正解でしょう。これ、政治的に正しくないというか、今の時代だとかなりヤバい。レイプされた女性がレイプ犯とねんごろになるなんて、ポリコレ的にアウトだろう。

と、のっけからネタバレ全開ですが、映画自体はまあ、そんなにびっくりするような映画じゃないですが、いろいろ面白いところがありました。

主人公のミシェルは孫もいる年配女性。突然、覆面の男にレイプされるも警察にも行かず、寿司の出前を取り、社長をつとめるエロゲーの製作会社に出勤して部下にいろいろ指図し、部下からは不満の声が。
なんで警察に行かないかというと、彼女が幼い頃、父親が大量殺人を犯し、彼女も共犯のように扱われたから。そのトラウマで、彼女は刑務所の父に会うのをかたくなに拒む。
ミシェルはレイプされたことを友人たちにしゃべってしまったり、いろいろ武器をそろえたりするが、レイプ犯はストーカーのようにミシェルにつきまとう。
職場ではミシェルに対するセクハラがあり、犯人は職場の人間ではと疑う。
犯人はミシェルの猫を手なずけているので、ミシェルの顔見知りの可能性が高い。
というところで後半、再度襲ってきた犯人を逆襲、覆面を取って犯人の正体を知る。
実は犯人はミシェルが好意を感じていた男で、このあと、なぜかミシェルは男と親しくなってしまう。
このあたりがいろいろ問題になるところだと思うのだが、たとえばレイプ被害者を描くハリウッドの「リップスティック」や「告発の行方」、フランスの「雨の訪問者」だと、被害者はレイプ犯を許さないし、「リップスティック」と「雨の訪問者」では犯人を殺してしまう。
なのにミシェルは犯人を許してしまうのだ。
犯人が苦しみ悩んでいるとか、気の毒な面がある、というのならわかるが、この犯人は二重人格のサイコパスで、同情の余地はない。
ふだんはよい人なのだが、性に関しては異常なのだ。
ミシェルだけでなく、これまでも妻や恋人を含む女性たちに同じことをしてきたに違いない。
そして、全然罪の意識ないし、悩んでもいない。
なぜ、ミシェルはこんな男を許して親しくなってしまうのか。それはおそらく、彼女の父親と関係がある。
彼女の父親もこの男と同じく、ふだんはとてもよい人だったのだろう。それが彼女がきっかけで狂気に陥り、大量殺人鬼と化してしまう。
ミシェルは男に親しみを感じるが、レイプ自体は許していない。だが、上にあげた映画のヒロインと違って、彼女はレイプ犯を殺さないし、罪を問うこともしない。それは結局、男性によってなされる。この辺もフェミ的にどうよ、なのだが。(追記あり)
ミシェルはこの男に対して、どこか聖母的なところがある。同じように、大量殺人鬼の父親に対し、母親は許しているようだ。離婚はしているが、娘のように拒否はしていない。遺言で墓を隣同士にしようとする。
また、犯人には妻がいるのだが、妻もまた、聖母的な女性であることが最後に示唆される。
ヴァーホーヴェンの映画で聖母的な女性といえば、「ロボコップ」の女性警官ルイスだ。ロボコップになったマーフィはベビーフードを食べる赤ん坊のような存在で、ルイスが母のように接して彼を大人にする。もともとマーフィは人間のときも少年のようで、ルイスは母親的存在だったのだ。
「ロボコップ」では、マーフィはキリスト的人物なので、ルイスが聖母的であるのは納得できる。しかし、「エル」のミシェルやその母が異常な男に対して母親的なのは理由がわからず、女性はこういうものみたいな決めつけさえ感じる。
それでも最後は、言い争ってばかりいたミシェルの息子とその妻がなごやかになっていたり、不倫でもめた女の友人とも友情が復活するなど、ラストシーンは後味がよい。

追記(ネタバレ注意)
ミシェルは間接的にレイプ犯を殺したのだ、と気づいた。
クライマックス、ミシェルは息子が自宅にいるとわかった上で男を誘い、レイプさせたのだ。
その際に彼女はちらっと積んであるマキを見る。
息子は母を救おうとしたということで無罪になったようだが、母も警察に余計なことを言わず、隠している。
息子の力でレイプ犯を、そして殺人鬼の父も葬ったのであり、また、息子もそれによって大人に成長する。だからラスト、息子と妻はまともな夫婦になっているし、ミシェルとの関係も良好なのだ。
ラストシーンではミシェルの元夫は恋人にふられ、ミシェルの不倫相手もミシェルの親友である妻から見限られている。このシーンではまともな男は息子だけのようだ。