2017年10月2日月曜日

裏ライトスタッフ「ドリーム」

硝子体出血になった金曜日は、実はシネコンに「ドリーム」を見に行っていた。
行く前からなんだか右端の方に「メッセージ」の象形文字みたいなのが揺れてるな、と思ったけれど、飛蚊症かな、と軽く考えていた。
が、映画が終わってショッピングセンターの本屋に行き、本を見てびっくり。白い紙の上に一面に細かい黒い砂粒のようなものが。
その後、「メッセージ」の象形文字みたいなものがいくつも目の前をゆらゆらするようになった。
「ドリーム」見てる場合じゃなかったんだあ、と思いつつ、先に見ちゃってよかったかなあとも思う。
眼科へ行った翌日は最悪の状態で、もう今後はきれいな目で映画を見られないのだ、と思うと絶望感さえ感じた。
今日は砂粒がだいぶ少なくなってきたように感じるけれど、象形文字と、あとから出てきたやや大きめの黒い点が邪魔。完全にきれいになるのは無理かもしれない。
土曜日は右端を墨がつーっと流れるように見えることが何度かあったけれど、今は血は止まっているようだ。

というわけで「ドリーム」。原題は「隠された数字」と「隠された人物」を引っ掛けたHidden Figuresだが、これではヒットしないと、最初は「ドリーム 私たちのアポロ計画」という邦題にし、実際はマーキュリー計画なので嘘だ、と批判されて「ドリーム」だけになったが、「ドリーム」だけだとイマイチ、パッとしない。
マーキュリー計画といえば、「ライトスタッフ」が有名だけど、あちらでは白人男性の宇宙飛行士とその妻たちが中心だったが、実はこの計画の背後に多数の黒人女性数学者が計算係として活躍していた、という史実をもとにしたのが「ドリーム」。いわば裏「ライトスタッフ」で、7人の宇宙飛行士も登場。「ライトスタッフ」ではこの7人に入らなかったパイロット、イエーガーがもう1人の主役で、最初と最後をイエーガーが締める感じになっていて、彼の物語が裏ライトスタッフという感じでもあった。
やっぱり表の人より裏の人の方がドラマになるのですなあ。
「ドリーム」は手堅い演出で面白く、当時の人種差別がよくわかる。当時のNASAは南部のヴァージニア州にあったため、南部の人種差別がそのまま表れていて、トイレも何もかも白人用と非白人ように分かれている。そのため、黒人の計算係として初めて白人しかいない建物に入った主人公キャサリンは、建物に非白人用トイレがないので800メートル離れた黒人計算係のいる建物まで用を足しに行かねばならない。上司の白人女性にトイレのことをきいても「非白人用は知らない」と冷たい返事。それでも用を足しながらも計算をするなど本当にがんばっているのに、白人男性上司から何度も席をはずすことを叱責され、ついにキレる。
計算係の仲間の黒人女性の中には技術者になるようにと言われる女性もいるが、NASAで技術者になるには指定の学校で勉強せねばならず、指定の学校はすべて白人専用。彼女は裁判で争って白人用の学校に行くことができるようになる。
また、黒人計算係をまとめる役の女性も黒人だという理由でリーダーの地位を与えられない。やがてIBMのコンピューターが導入され、計算係が不要になる時代を予感した彼女は仲間にプログラミングを教え、そうした努力の結果、リーダーの地位を得る。
白人男性上司の前でキレたキャサリンはといえば、トイレの件を初めて知った上司は以後、トイレの白人用と非白人用を撤廃する。また、キャサリンの優れた数学力が必要とわかり、白人男性以外は入れなかった会議にも参加させる。
こんな具合に、がまんにがまんを重ねて努力した黒人女性たちがやがてその努力と才能が白人社会に認められていく、という映画なのだけれど、この映画に特徴的なのは、白人たちは意識的な差別主義者ではなく、差別に無知無関心な白人だということだ。
黒人だから、女性だから、差別されてもそれが普通と、無意識のうちに思い込んでいる。また、トイレの問題のように、仕事に支障をきたすような差別にも気づかず、改善しようとしない。キャサリンが入れるトイレが建物にないことの大変さに気づかない女性上司がその典型。男性上司も、彼女がキレるまで何も気づかないのだ。
同じ時代、キング牧師などはデモなどで積極的に差別に反対していたのだが、それに比べるとこの女性たちはおとなしいというか、我慢強く自分たちを認めてもらえるよう努力しているが、もう少し戦わないといけないんじゃないの?という気もする。国の施設なのに南部にあるからと南部の差別そのままな当時のNASAもひどいと思うが。
というわけで、黒人中心のドラマなのだけど、やっぱりどこか白人社会に認めてもらう黒人女性の話、に見えるのがイマイチ大絶賛できないところ。夫を失い、3人の娘を育てるキャサリンの新しいロマンスもほほえましく、気持ちのいいドラマではあるのだけど。
「ライトスタッフ」でエド・ハリスが演じ、この映画でも重要な役回りで登場するジョン・グレンは、最後にご本人の写真が出てくると、エド・ハリスに似てるなあと思う。「ドリーム」での彼の役の俳優は似てないし、あまり個性が強くないのが残念。