2018年1月13日土曜日

ワーナーの旧作映画3本

その後風邪が悪化し、完全に寝正月になってしまったのだけど、昨年末に買いこんだDVDをすべて見ることができました(ブルーレイは機械がないのでお預け)。

大晦日の夜にローソンで引き取った古いワーナーのギャング映画2本、「化石の森」と「彼奴は顔役だ!」。「化石の森」は映像がかなり劣化していましたが、「彼奴は顔役だ!」の方はきれい。どちらもワーナーの短編映画が何本か入っていて、これはまだ見ていません。そのほか、17分ほどのドキュメンタリーが入っていて、作品についていろいろな人が解説しているのが面白い。

「化石の森」は中学生のときにテレビ放送で見たきりだったので、かなり忘れていたが、いかにも舞台劇の映画化らしい作品。舞台ではレスリー・ハワードとハンフリー・ボガートが同じ役を演じていて、ハワードがボガートも出るという条件で映画出演をOKし、ボガートがその恩を忘れなかったという有名な逸話があるが、確かにこの映画でのハワードとボガートは非常に息が合っていて、2人の間のケミストリーがすばらしい。ハワードの演じる主人公とボガートの演じるギャングは善と悪という正反対の人物なのだけれど、実は似た者同士だということをお互いが感じていて、2人のやりとりの中でそれが浮かび上がってくるところがすごい。
ハワードもボガートも実にみごとな演技を披露しているけれど、改めて思ったのはレスリー・ハワードはこの時代を代表する名優だったということ。ヒロインを演じるベティ・デイヴィスの出世作「痴人の愛」もハワードの主演作で、ハワードには相手役から名演技を引き出す力もあったのだと思う。
ハワードは第二次世界大戦中に乗っていた飛行機がドイツ軍に撃墜されて亡くなったのだが、生きていたら戦後も活躍しただろうに。

「彼奴は顔役だ!」は最初に見たのはやはり中学生のときの日曜洋画劇場。その後、大人になってから輸入ビデオで見ていたので、筋は覚えていた。第一次世界大戦の戦場で知り合った3人の男。ジェームズ・キャグニー演じる庶民の労働者は戦後、仕事を失い、禁酒法時代の酒の密造に手を染める。ハンフリー・ボガート演じる男はワルで、やはり密造酒の世界でギャングになっていて、やがて2人は手を組む。もう1人は中流階級のインテリで、弁護士になり、キャグニーやボガートの世界とかかわりを持つが、やがて検事となり、ボガートの敵となる。
ドキュメンタリーではマーティン・スコセッシが登場して解説をしているのが面白い。
3人の男たちは非常に対照的で、キャグニーは善人なのに社会のせいで悪の道に入ってしまう庶民、ボガートはもともと悪人、そしてもう1人は中流のインテリとなっている。ヒロインは2人登場し、プリシラ・レーン扮する女性は中流の家に育った歌手志望の娘で、キャグニーが惚れて歌手にするが、彼女は弁護士と恋に落ち、結婚してしまう。もう1人はグラディス・ジョージ演じる酒場の女主人。鉄火肌の姐御でキャグニーに恋をしている。彼女とキャグニーは同志的な絆で結ばれている。この5人の主役が個性と役割がはっきりとしていて魅力がある。
キャグニーとボガートはこの映画以前に「汚れた顔の天使」と「オクラホマ・キッド」で共演していて、3作ともボガートが悪役でキャグニーに殺される。しかし、ボガートはこの頃は人気が出てきていて、「彼奴は顔役だ!」の翌年に初主演作が公開される、とドキュメンタリーで紹介されていた。その同じ年、キャグニーはミュージカル「ヤンキー・ドゥードル・ダンディ」でアカデミー賞主演男優賞を受賞する。
ボガートは舞台で人気のあった俳優だったそうだが、キャグニーはもともとは歌って踊れる俳優で、たまたまギャング映画で人気が出てしまったのでずっとギャング役ばかりで、そろそろギャング役は卒業したいと思っていたらしい。
「彼奴は顔役だ!」はキャグニーの映画の中では一番好きなのだが、この映画、やはり大好きな「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」に似ているような気がしてならない。ギャング映画で一番好きなのはこの2本だ。ちなみに、キャグニーとボガートはどちらも好きなスター。

もう1本、オムニセブンで注文して買ったジュネス企画の「情熱の狂想曲」もワーナーの映画で、こちらはボガート夫人のローレン・バコールが出演している。
前にも書いたけれど、中学生の頃からずっと見たいと思っていて見る機会のなかった映画。やっと見られて、しかもよかったので大満足。
カーク・ダグラス演じるトランぺッターが裕福な令嬢バコールと結婚して不幸になるが、ドリス・デイ演じる歌手やホーギー・カーマイケル演じるピアニストたちに救われる、という物語。実在の悲劇のトランぺッターがモデルになっているらしい。
孤児だったダグラスは黒人トランぺッターからトランペットを習い、やがてプロになるが、金持ちだが心に問題を抱えたバコールと恋に落ちて結婚したことから人生が狂い始める。
このバコールの演じる女性がかなり問題のある人物で、冷たい父親のせいで心に傷を負い、いろいろなことに手を出しては失敗している。彼女がいろいろなことに手を出すのはある種の自分探しなのだが、何をやってもうまくいかない。なまじ金があるのでむなしい自分探しを続けている。
正直、見ているときはダグラスとバコールがなぜ恋に落ちるのか理解できなかった。
バコールの方は、何をやっても大成しない自分に比べ、トランペットで一芸に秀でているダグラスに惹かれたのだろう、ということはわかる。が、ダグラスがバコールに惹かれるのがどうもわからない。ただ、彼は理想の音を探していて、彼女を通じてそれを手に入れられると思ったのかな、という感じはした。
この2人が恋に落ちて結婚までしてしまうのがどうも理解に苦しむのだが、それでも心に問題を抱えた金持ちの令嬢を演じるバコールの演技はすばらしい。映画を見る前はバコールが悪女、ドリス・デイが善女と単純に考えていたのだが、バコールの演じる女性は悪女ではない。結果的に主人公にとっては冷たい悪女になっているが、単なる悪女ではない、心の病を抱えた複雑な女性になっている。
ダグラスとバコールは同じ演劇学校の同級生で、モデルで稼いでいたバコールが{脱出」のヒロインに抜擢され、彼女のつてでダグラスもハリウッド入りしたようだ。そんなわけで、2人の演技も息が合っている。ドリス・デイは歌で本領発揮。バコールもドリス・デイも好きな女優。
映画では黒人の音楽と白人の音楽が対比されていて、そこには白人による黒人差別が垣間見える。まだ本格的な人種差別を描く映画ではないが、バコールの演じる女性にも差別意識があるように描かれている。ダグラスはバコールを選んだために黒人の仲間を見捨ててしまった、といった展開にもなっているのだ。ちなみに原作小説ではドリス・デイの人物は黒人とのこと。原作は翻訳があるのだけど、国会図書館とか、ごく一部の図書館にしかないようだ(すでに絶版)。

というわけで、年末年始に見たワーナーの旧作映画3本をご紹介しました。