2010年11月16日火曜日

試写2本立て@六本木

 六本木の試写室をハシゴして2本見る。1つはオリヴァー・ストーンの新作「ウォール・ストリート」、もう1つは園子温監督の新作「冷たい熱帯魚」。どちらも面白かったが、特に、「冷たい熱帯魚」はすごい傑作だった。

 「ウォール・ストリート」は1988年のストーンの映画「ウォール街」の続編。前作の最後に逮捕されたゲッコー(マイケル・ダグラス)が、5年の裁判と8年の服役を経てシャバに出てくるところから映画は始まる。他の受刑者はみな、家族が迎えに来ているのに、ゲッコーには誰も来ない、というわびしい冒頭。そして、7年後の2008年、経済評論家として作家活動をしているゲッコーのところに、彼の娘ウィニー(キャリー・マリガン)と婚約中の青年ジェイコブ(シャイア・ラブーフ)が現れる。青年の勤めていた投資銀行がライバル銀行のやり手ブレトン(ジョシュ・ブローリン)の陰謀で潰され、父親のような存在だった社長が自殺、その復讐のために、ゲッコーに近づいたのだった。ゲッコーの娘ウィニーは金のことしか頭にない父を忌み嫌っているが、ジェイコブはゲッコーに近づき、協力を得るかわりに娘との仲を取り持とうとする。
 前作「ウォール街」は、チャリー・シーン演じる青年がまじめな父(マーティン・シーン)よりも、カリスマ投資家で、欲は善と豪語するゲッコーにひかれていき、しかし、結局は、ゲッコーは「悪い父親」だったとわかるという話だったが、当時のストーンの映画は人物が善と悪にはっきり分かれていて、象徴的な寓話を思わせる内容が多かった。そして、何より、ストーン自身の父親との葛藤を反映した、父親のような存在の人物と若い主人公の葛藤を描いていた。
 しかし、さすがに22年たって、今では、ストーンはそういう父親のような人物と息子のような人物の葛藤を映画の中心にはしていない。この映画では、ジェイコブはゲッコーの娘と結婚する予定なので、ゲッコーは義理の父になるわけだが、重点は息子ではなく父親の側にある。ゲッコーはもう一度、娘の父になりたがっていて、また、娘と結婚するジェイコブの父にもなりがたっている。
 一方、ジェイコブは復讐のためにブレトンの部下になるが、ここではブレトンがジェイコブの兄貴的な人物になる。おいおい、復讐はどうしたのよ、と思っていると、結局、ブレトンはジェイコブが期待する研究への融資を妨害し、ジェイコブはブレトンと決別。結局、また復讐、ということになるのかと思っていると、例の金融危機が勃発。その後、いろいろありまして、途中からゲッコーが突然、本性をあらわしたりもするんですが、まあ、一応、最後は復讐ってことになるのですが、いろいろな意味で。
 「ウォール街」のように、ストーンは画面分割したり、スピード感あふれる映像つくりをしたり、自分が画面に登場したりと、楽しんで映画を作っていますが、やはり、前作のような映像の斬新さ、物語の求心力はありません。チャーリー・シーンが「ウォール街」のときの役でちょっと出てきますが、「ウォール街」の最後に目覚めたはずの主人公がこんなオヤジになってるのかと思うとかなりがっかり。でも、マイケル・ダグラスは「ウォール街」と変わらぬカリスマと演技力ですばらしいです。また、ストーンの「ブッシュ」に主演したジョシュ・ブローリンの存在感もダグラスに負けず劣らずで、この2人を見るだけでも見に行く価値はあるでしょう。一方、女優陣のキャリー・マリガン、スーザン・サランドン(ジェイコブの母)は、なんでこんなにブスに撮るの?っていうくらい、魅力がなくてびっくりです。ただ、ストーンがダメな母親を描くのはめずらしいかもしれない。

 園子温監督の「冷たい熱帯魚」は、埼玉愛犬家殺人事件と他の猟奇殺人事件をヒントにした映画で、英語題名はコールドフィッシュとなっているが、ゴールドフィッシュ(金魚)のもじりかもしれないなと思った。
 舞台は2009年1月の静岡県。雪をかぶった大きな富士山と、工場の煙突がドーンと出てくるシーンが印象的。主人公は小さな熱帯魚店を営むもの静かな中年男。先妻を亡くし、若い後妻と、先妻との娘の3人で暮らしているが、娘は学校を出ても家でぶらぶらしているようで、父親は完全にバカにされ、義母は嫌われている。ある日、スーパーで万引きをした娘を、許すようにと店長にかけあってくれた男がいて、その男が大きな熱帯魚センターを営んでいることがわかる。その名もアマゾンゴールド(やっぱりゴールドだ)。アマゾン川から珍しい魚をいろいろ仕入れているということもあって、何度も台詞でアマゾン、アマゾンと言うので、あっちのアマゾンかと思って冷や冷やした。
 そして、そのアマゾンの経営者は、親切にも、万引きした娘を住み込みで働かせたらどうかと提案。後妻と娘の不仲もあって、父親も母親も娘も賛成し、娘はアマゾンの店員になる。
 このアマゾンのオーナーはでんでんが演じているのだが、最初はものすごいいい人に見える。が、やがて裏の顔が表に出ると、これがものすごく怖い。まさに豹変。実は彼は熱帯魚の養殖の共同経営者になれと金持ちに働きかけてお金を取り、殺して死体を細かく裁断して捨てていたのだ。
 というわけで、娘を人質にとられた格好の主人公は、殺人に協力せざるを得なくなる。オーナーのまわりには奇妙な人物(共犯者)が集まっていて、オーナーと同じくらい狡猾で、表と裏の顔の豹変がすさまじい弁護士、血を見るのは全然平気で、夫と犯罪を楽しんでいるオーナーの妻も、でんでん演じるオーナーと同じくらい存在感バツグンで、個性爆発というか、とにかく、この3人はすごい。このオーナー側の3人の強烈な個性に比べると、主人公一家の3人はまあわりと普通という感じなのだが、実は、この主人公が途中で豹変します。そして、豹変したあとは、この主人公を演じる吹越満が映画を乗っ取ってしまう。それまではメガネをかけた小心者だったのが、いや、このあとは映画を見てもらいましょう。
 前半はとにかく、オーナー側の3人の個性と演技でぐいぐい引っ張られていきますが、後半は主人公の変貌によって明らかになる人間の真実、人生の真実、それがすごいです。血糊がいっぱいの凄惨な映画なのに、クスッと笑ってしまうシーンがあるのもまた不思議。弁護士役の渡辺哲が、この映画を「偉大な喜劇」と呼んでいますが、同感です。オーナーの妻役の黒沢あすかもすごい。主人公の妻と娘役の神楽坂恵と梶原ひかりはどこにでもいそうな普通感がよいのだと思った。
 まあ、とにかく、面白い映画です。ただ、死体の解体は、あんなに楽でも短時間でできるものでもないと思いますが。ラストはちょっと、キム・ギドクの映画を思い出した。