大学の先生が訳してるのに誤訳ボロボロとかの指摘があって、一時、物議をかもした光文社古典文庫が先月「フランケンシュタイン」の新訳を出していた(まだ現物は見てない)。
「フランケンシュタイン」は古くは角川文庫の翻訳(これは相当古いもの)、国書刊行会の翻訳が出ていたが、角川のは抄訳だし、国書のは値段が高くて訳が読みにくいということで、1984年、創元推理文庫から新訳(当時)が出た。翻訳をしたのは私の友人で、そのコネで、イギリス小説を研究していた私が解説を書き、それをキネ旬に送ったら、映画評論家として採用になったという、まさに私のスタート地点の仕事(あくまで翻訳の付録だけどね)。
その後、子供向けのダイジェスト版が児童書の出版社からいくつか出たり、単行本で新訳が出たりしたのかな、確認はしてませんが、アマゾンでフランケンシュタインで検索すると、大量の翻訳が出てきます。が、それでも、創元の本は値段の安さもあって、たぶん、ダントツの売れ行きだと思います。今度出た光文社の古典文庫より200円安いのだ!
この創元の「フランケンシュタイン」が出たときは、今よりさらに安い定価で、部数は18000部だったかなあ。翻訳者も私もページ割の印税でしたが、私は400字で50枚くらい書いて、初版でもらったのは5万円でしたわ。翻訳者がいくらもらったかは推して知るべし。
しかも、本はあまり売れなくて、絶版の危機だったのですが、そのとき、救世主現る! ある学校で、この本を教科書にしたいという話があり、増刷決定。それから売れ始めたのです。
おかげさまで、いまだに印税がもらえます(増刷といっても、刷り部数はわずかなので、たいした金額ではないが)。おまけに、電子書籍にもなっているんですね。毎年、ドトールのコーヒー代くらいは印税が入ります(電子書籍はそんなものよ)。
ご存知のように、作者のメアリ・シェリーが「フランケンシュタイン」を初めて書いたとき、彼女はまだ18歳でした。18歳でああいうのを書いてしまうんだからすごいのですが、あの創元の翻訳が出たとき、翻訳者も解説者もまだ20代だったということを言っておこう。「フランケンシュタイン」の翻訳者はおじさんが多いんですけどね(児童向けは除く)。また、怪物の一人称を「おれ」ではなく、「自分」にしたのも創元だけで、今だったら編集者が許してくれなかっただろうと思うと(最近の翻訳は男はみんな「おれ」にしてしまう傾向がある)、あの頃はみんなで挑戦してたんだな、ということを感じます。私の解説も、今見ると、これ、自分が書いたのか、と思うようなものだもの(ったく、今は何やってんだか)。
そういえば、私が解説を書いていたのはちょうど27年前の今頃でした(1983年秋)。84年2月に本が出て、同年4月にキネ旬から声がかかるのですが、そのとき依頼されたのが、ヒッチコック・リバイバル特集の中の「知りすぎていた男」。「裏窓」、「めまい」、「ロープ」、「ハリーの災難」とともに公開された作品で、この5作は権利の関係で、長らく見ることができない作品だったということで、特集が組まれたのでした。
そんな私が、なんと、先日、キネ旬の午前十時の映画祭のコーナーで、「裏窓」と「北北西に進路を取れ」の紹介を依頼されましたよ。これも奇遇というか、運命なのかな?
東京創元社「フランケンシュタイン」紹介ページ
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488532017