2010年11月1日月曜日

ミスリーディングな映画評

 ツイッターでちょっと話題になっていたんですが、河瀬直美監督の映画「玄牝」の映画評が朝日新聞の10月29日夕刊に載って、それを読んだ人が面白そうだから映画を見に行きたいと書いていて、それにリツイートする人がいて、ほかにもいろいろツイートされているんですが、それで興味を持って、朝日新聞のその映画評を読んでみました。
 書いている人は有名な映画評論家で、個性的な著作の多い人で、この人がこういうふうにほめているなら面白いのだろうと考える人が出てもおかしくないのですが、映画評を読んで、ちょっと、考えてしまいました。
 私はこの「玄牝」は試写で見せてもらったのですが、正直、面白くなかったです。
 愛知県にある吉村医院という、自然分娩で子供を産ませる医院のドキュメンタリーで、この医院はテレビで取り上げられたりして、かなり有名らしい。昔ながらの家を作って、そこに妊婦を住まわせ、適度な労働や運動をさせて自然分娩に臨ませているらしい。地上の楽園のような別世界が、ファンタジーの世界のような牧歌的雰囲気で描かれています。
 私はもともと、河瀬監督の映画は理解不能、どこがいいんだかわからない人間で、だから、これが面白くないのもまあ、感性が合わないんだろうと思っていました。私には、吉村医院の賛美にしか見えなかったし。
 しかし、朝日新聞の映画評は、この映画を、賛美に終わらせなかった優れた映画として評価しています。その理由は、監督が吉村医師に鋭いツッコミを入れたり、吉村医師の考え方の問題点を浮かび上がらせているからだというのです。
 でもって、その問題点というのは、吉村医師が、「死は神の摂理」という考え方の持ち主で、そういう考え方の人間に子供を託すのはホラーだ、ということ。
 でもね、この映画を見た感じでは、薬を使って子供を産ませたり、死産だとすぐに死んだ胎児をかきだす一般の産科医院の方がホラーだというように描いているんですけど。
 確かに、あとで調べたら、この吉村医師というのは非常に極端な考え方の持ち主で、自然分娩で死ぬ子供は死んでもしかたない、救う必要はない、みたいな考えの持ち主らしいです。でも、そういう人だということは、映画を見ても全然わかりません。朝日新聞の映画評を読んでも全然わかりません。
 その評論家のサイトを見ると、この人は吉村医院問題に非常に関心があることがよくわかります。おそらく、本当は言いたいことがたくさんあった。でも、短い映画評ではあの程度が限界だった。あるいは、新聞は勝手に原稿を書き直してしまうらしいので、書き直されてしまったのかもしれない。
 いずれにしても、この映画が吉村医院の賛美だけに終わらないというのは、私は当たっていないと思います。確かに追及はしている、でも、全体としては、牧歌的な理想郷として描いている。そして、こんなところで出産するには費用がバカ高いだろう、とか、自然分娩がだめになったときに受け入れる近所の病院は大変だろう、という、普通に予想される問題点については、全然描かれてないのです。
 吉村医院というのは、戸塚ヨットスクールみたいな感じがして、大部分の人はそこで救われて信者になっているけど、一部にうまく行かなくて死んだりする人が出るところ、という感じです。始めた人は善意で始めてるわけですが、すべてがうまくいくわけがないのです。そして、この2つに共通するのは、非常に保守的で古い考え方に則ってやっているということ。