2013年6月30日日曜日

ミステリーズ 運命のリスボン(ネタバレ大あり)

ポルトガルの巨匠ラウル・ルイスの遺作「ミステリーズ 運命のリスボン」をDVDで見た。
昨年、試写状をいただきながら、4時間半という長さにめげ、というよりは時間の都合がつかず、その後も見逃していたが、気になっていた作品。DVDは前編と後編に分かれ、2枚分のレンタル料がかかる。しかも新作なので3泊4日。もう時間がない、ということで、土曜日の昼間に前編、夜に後半を見た。
正直、前半を見終わったときは、これはいける、と思ったのだが、後半は私には退屈で、睡魔が襲ってきた…。
ほかの人はどう見たのかな、と思い、ネットで検索をかけると、やはり退屈という意見が。その一方で、絶賛する意見もあるのだけれど、私の見た感じでは、絶賛する方の人の意見は具体性がなく、参考にならない(探し方が悪いのかもしれないけど)。
舞台は19世紀前半のポルトガルで、そこから地理的にはフランス、イタリア、ブラジル、時間的にはフランス革命前まで広がっている。フランス革命前は男性は半ズボンにストッキングをはいていたが、革命後は今のようなズボンになるので、服装でだいたい時代はわかったし、フランス革命からナポレオン戦争あたりは一応、知っている時代。ただ、この時代にポルトガルはどうだったのか、そういう時代背景と映画の内容がどうかかわっているのかがわからない。この辺がわかると面白いのだろうか。
結論から言えば、この映画は死にかかっている少年ジョアンの見た幻想なのだ。長いので2回見るわけにはいかなかったが、最初のところをもう一度見直したら、修道院のようなところの少年たちの施設にいる孤児ジョアンが同じ施設の少年に「おまえの父親は泥棒だ」と侮辱され、怒って本を投げつけたあと、けんかになり、ジョアンが気絶するほどの大怪我をしたようだ(本を投げつけたあとのシーンは映像がなく、音だけ)。その後、ベッドに横たわるジョアンが幻を見るが、この幻を見るシーンがラストでまた登場し、そのあと画面は真っ白になる({ブラック・スワン」のラストのように)。
ジョアンは本名がわからず、名前もジョアンだけで、姓がない。少年たちの世話をするディニス神父の息子かと聞かれたことがある、というせりふ(ジョアンのナレーション)がある。そして、冒頭では、回復したジョアンが人形芝居のセットをもらい、それを動かすと、母親だと名乗る伯爵夫人が登場する。
この映画にはジョアンの動かす人形芝居が何度も出てくるが、結局、このあとの話に登場する人々の多くは、ジョアンの創作だということだろうか?
伯爵夫人が登場するまで、ジョアンは父親が誰か知りたいと思っているが、母親のことは出てこない。なのに、このあとは伯爵夫人が重要な人物となり、彼女がジョアンを生んだ背景が語られる。
それによると、ジョアンの父は身分は高かったが金がなく、そのために侯爵令嬢だが同じく金のないジョアンの母と結婚できなかった。しかし、2人はあいびきを続け、母はジョアンをみごもる。怒った侯爵の差し金で父は殺され、母はどこかに閉じ込められ、生まれた子供はすぐに殺されることになっていたが、ある人物(神父になる前のディニスだと、あとでわかる)が殺すことを依頼された男(のちに新大陸の奴隷貿易で成功し、アルベルトと名乗って再登場)に金を渡して子供を引き取り、それでジョアンはディニス神父のいる施設で育てられたのだ。
この施設の子供は親が犯罪者である場合が多いようで、ジョアンをなぐった少年は父親が馬泥棒で服役中、別の子供は父親が絞首刑になる。だから、ジョアンも、父親は犯罪者ではないかと思っているのだ。
ジョアンの母はその後、伯爵と結婚させられる。このあたりから前半の最後までは非常に見ごたえがある。伯爵はディニスから、彼女は愛する人を奪われて憎しみしか心にないから、彼女に近づくな、と忠告されるが、伯爵はその忠告を無視して彼女と結婚する。しかし、彼女に隠し子がいたとわかって、妻を幽閉、自分は召使を愛人にする。その後、妻が自由になり、息子ジョアンと暮らすようになると、伯爵はあることないこと、妻についての悪い噂を流す。それに怒ったのがディニス神父と、そして、かつて生まれたばかりのジョアンを殺す予定だったアルベルトで、2人はそれぞれ、伯爵を追い詰める。瀕死の重傷を負った伯爵は妻への虐待を深く反省し、妻に許しを求め、全財産を妻に残して死ぬ。伯爵夫人は夫を許し、妻としての役目を果たさなかったとして遺産は辞退。かわりに遺産を受け取ることになった愛人も辞退。愛人は金が目当てと思っていたディニスと夫人は驚く、というところで前半の終了、休憩となる。
この前半の最後の部分が非常によくて、後半に期待をもたせるものだった。特に、神父と夫人が、遺産を断った愛人の心理を知りたいと思ったり、女子修道院にいるシスターが神父の妹といわれていたが、実は妹ではないらしい、という話が出てきたりと、おお、まさにミステリーズ、と思ったのだ。
しかし、後半に入ったら、愛人の物語も妹の物語もなし。かわりに、ディニスの父と判明した聖職者の話になる。この話がジョアンの両親の話の焼き直しで、政略結婚させられた女性が恋人とイタリアへ逃げ、そこでディニスが生まれたが、母親は死亡。父はディニスを親戚に預け、というふうに、ディニスの出生の秘密の物語が語られる。ディニスはさらに別の家に預けられ、そこで1人の女性をめぐる複数の男の恋愛沙汰に巻き込まれる。その結果生まれた双子の姉弟のうち、姉が成人したジョアンの物語に大きな影を落とすことになり、なおかつ、ジョアンの母の夫である伯爵の愛人だった女性がアルベルトと結婚、そのアルベルトと双子の姉がかつて恋愛関係にあったためにさらにこんぐらかった関係に、というふうに話が進む。
というわけで、一応、伯爵の愛人で遺産を断った女性は登場するのだけれど、遺産を断った背景の物語は全然出てこない(こっちが知りたかったのに)。そして、ディニス神父の妹?のシスターの話は全然出てこないのだ(こっちが知りたかったのに)。
つまり、私が期待したのとは全然違う方向に進んでしまうのですね、後半は。
一方、ジョアンの母はその後、ほとんど姿を見せず、いつのまにか死んでいて、ジョアンの反応がまた冷たい。こいつ、やっぱり父親が気になるだけで、母はどうでもよかったんじゃねーの?と思ってしまうのだ。
しかし、ジョアンの父とされる伯爵夫人の元恋人は出番も少ないし、その後の話でも何か重要なファクターになってるようでもない。
一方、ディニス神父はジョアンが生まれたときからかかわっていて、しかも、わざわざ生まれてくるジョアンの命を救いに行っているのだ。ジョアンの父は、実はディニスではないのか? そして、母親はディニスの妹だといっているシスターでは?(伯爵夫人はこのシスターのいる修道院に身を寄せていた。)
また、ジョアンを殺す予定だったが、金をもらってジョアンをディニスに渡したアルベルトは、ジョアンのその後を気にかけていて、この人も父親的存在。そのアルベルトがジョアンの母の夫の愛人と結婚するというのは、その愛人もジョアンにとっては母親的存在なのでは?(だから2人とも伯爵の遺産を断った?)
つまり、ジョアンの父=伯爵夫人の元恋人=アルベルト=ディニス、ジョアンの母=伯爵夫人=その夫の愛人=シスターでは? ディニスの父と母をこれに加えてもいい。
つまり、全部、死にかかっているジョアンの妄想で、たぶん、実在するのはディニスだけ。いや、このディニスも、現実のディニスと妄想の中のディニスは別人かも。
というわけで、入れ子細工とか、そういった精緻な構造を高く評価する人もいるのだが、私の感想としては、伯爵夫人のエピソードの焼き直しみたいなのが後半に2つも出てくるのはひたすら退屈。焼き直しのようなものを出すことで、入れ子細工を表現しているのだろうが、私は飽きてしまった。
映像的な見どころも、前半でだいたいわかってしまったので、後半はたいして驚かない。
ヨーロッパではロングランヒットしたそうで、また、6時間のテレビ版も放送されたという。確かにはまればリピーターになる人もいるだろう。何度も見ればわかるところも多いのだろうけど、私は前半はともかく、後半はつきあいきれない。
そうそう、後半の最後のエピソード、双子の姉弟の姉が元恋人のアルベルトを恨んで、刺客を何人も差し向け、弟も刺客になって逆にアルベルトに殺されてしまう、というのは、ジョアンの母の夫の伯爵がアルベルトの返り討ちにあって殺されるのと対になっていて、映像も似たような感じになっていたから、ここで前半の最後と後半の最後が呼応しあうのだろうけど、この辺もなんだかなあ、であった。
ジョアンの本当の父と母は、結局、わからないままなのだろう。