2013年6月4日火曜日

表参道駅の壁はギャツビー一色だった。

昨日、表参道駅の改札を出たら、通路の壁がバズ・ラーマン監督の「華麗なるギャツビー」の広告で埋め尽くされていました。
6月14日公開とのことですが、この映画、2年前に某大学で野崎孝訳の「グレート・ギャツビー」と1974年の映画「華麗なるギャツビー」の比較みたいなのを3回にわたってやっていたときから存在を知っていて、レオナルド・ディカプリオがギャツビーだと知り、ひそかに期待していた作品でした。
しかし、RottenTomatoesを見ると、批評家の評価は芳しくなく、観客には一応受けているようです。3Dだというので、文芸映画というよりはアトラクション的なのかもしれません。
「華麗なるギャツビー」という邦題は、74年の映画化の邦題で初めて使われた言葉なので、74年版の配給会社CICに著作権があるのでは、と思うのですが、このCICはのちにUIPとなり、その後消滅したので、どうなのかなあ、と思っています。翻訳は映画に合わせて一時、「華麗なるギャツビー」になりましたが、その後はどの訳も「グレート・ギャツビー」です。村上春樹と関連づけられたりするとかえって映画に不利と判断して、「華麗なるギャツビー」を採用したのでしょうか。個人的には「華麗なるギャツビー」は74年版だけにしてほしかったです。
スコット・フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」は何度も映画化されていて、原作が出ですぐにサイレント映画になり、その後、トーキーになってからは49年に映画化。邦題は「暗黒街の巨頭」で、アラン・ラッドのギャツビー、ベティ・フィールドのデイジー、シェリー・ウィンタースのマートルと、ぜひ見たい!と思わせる顔ぶれなのですが、この映画、アメリカでもDVDやビデオになっていないらしいです。特にシェリー・ウィンタースは「陽の当たる場所」の貧しい女工だから、彼女のマートルはぜひ見たい。ウィルソン役のハワード・ダ・シルヴァが74年版にも出演しています。
その次がロバート・レッドフォード主演の74年版になるのですが、白い服を着たレッドフォードのギャツビーはひたすらデイジーを愛し続けるピュアな男で、暗黒街とつながりのあるダーティな面や凄みは表現できていませんでした。アメリカンドリームの美しい夢とダーティな現実の両面を持つギャツビーは表現できないのだろうか。レッドフォードだからだめだったのか、それとも、誰でもむずかしいのか、その辺がずっと疑問で、たとえば、49年版のアラン・ラッドなら、金髪の美青年ではあるけれど、西部劇やギャングものに主演するスターでもあったので、その2面性がもしかしたら表現できていたのかな、と思わなくもないのです。
74年版はもともと、スティーヴ・マックイーンのギャツビー、アリ・マッグローのデイジーで予定されていたそうで、マッグローは製作のトップにいたプロデューサー、ロバート・エヴァンスの妻だったのが、「ゲッタウェイ」でマックイーンと不倫し、夫と離婚したので、2人はキャンセルになったと、当時は言われていました。エヴァンスはマッグローに求婚したとき、ギャツビーがデイジーに求愛するシーンのようなことをして彼女の心をゲットしたようなので、まさに自分がギャツビーだったのでしょう。もっとも、マックイーンとマッグローのギャツビーとデイジーではちょっとイメージが違う気がしますが、ギャツビーの候補にはジャック・ニコルソンやウォーレン・ベイティもあがっていたそうで、マックイーンやニコルソンなら、凄みのあるギャツビーになったに違いありません(でも、夢を追い求めるピュアな男の面はだめだったかも)。
デイジー役にはマッグローのほかにいろいろな女優が候補になっていたけれど、最終的にミア・ファローに決定。公開当時に見たときは、とにかくレッドフォードとファローがだめ、そのかわり、ブルース・ダーンのトム、カレン・ブラックのマートルがとにかくすばらしく、スコット・ウィルソンやサム・ウォーターストンといった脇役も印象に残りました。しかし、のちにDVDで見直したときには、レッドフォードはだめだけど、ファローはよいと感じました。ファローのデイジーは、ギャツビーの見た理想のデイジーではなく、ギャツビーの愛に値しないデイジーとして描かれていたのだと思います。また、彼女のデイジーは野崎孝訳のデイジーとイメージがわりと合うのですね。野崎訳のデイジーは原文とは違うという意見もあるのですが(原文は読んでない)。ただ、公開時の私がファローに不満だったのは、ギャツビーの見た美しいデイジーの面をもっと出してほしかったのかもしれません。
その後、「ギャツビー」は2000年にテレビドラマ化されたのですが、私は見ていません(おっと、このドラマも「華麗なるギャツビー」でしたね。これはもう自由に使っていい邦題のようだ)。ディカプリオの「ギャツビー」はその次ということで、5番目の映画化です。
表参道駅の壁を埋め尽くした「ギャツビー」の広告では、ディカプリオは黒い服を着ています。レッドフォードの白に対し、黒。ディカプリオはジェームズ・キャグニーに似ていると、かなり以前から私は思っていた、ということは前にも書きましたが、ギャング役者キャグニーに似ているディカプリオならきっと暗黒街につながりのあるダーティな面や凄みを表現できるだろう、そして、美形のスターでもある彼なら、夢を追うピュアな男も演じられるだろう、というのが私の期待です。配給もワーナーなので、「暗黒街の巨頭」というタイトルでもよいかも、などとさえ思うのですが、デイジーはキャリー・マリガンか、他の役者もどうなんでしょうね、ブルース・ダーンやカレン・ブラックみたいな演技派はいるのかな、特に心配なのはニックだよ、と思う私は期待と不安が半々です。74年版のニック、サム・ウォーターストンはよかったね。