2019年2月9日土曜日

「ファースト・マン」

今朝は7時すぎに目が覚めてしまい、午前十時の映画祭の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」に十分間に合うな。でも午後の「ファースト・マン」を予約してしまっている。「ワンス~」が終わるのが2時35分、「ファースト・マン」の本編開映が3時15分。ネットで調べてみたけど40分で移動は絶対無理。おまけに外は雪が降っている。
「ファースト・マン」は6回見たら1回無料の回なので、あきらめてもよかったけど(こんなに早く自然に目覚めること自体、自分にとっては奇跡)、やっぱり雪の中出かけるのはなんだかなあ、と思い、そのあとまた寝て、午後から「ファースト・マン」へ。
午後には雪もやんでいて、電車も平常運転。普通にたどり着けた。

「ファースト・マン」は予告見たときからあまり面白くなさそうだったけれど、デイミアン・チャゼル監督なので見ないわけにも行かず。シネコンでは「シティーハンター」が大人気のようで、「ファースト・マン」は予想どおりガラガラ。おまけにエンドロールが始まったとたん、数少ない観客がどんどん帰ってしまう。残った人わずか。
まあ、それも無理ないと思いました。
うーん、つまらないわけじゃないけど面白くもない。こういう映画が実は一番つまらない。明日の朝には忘れてしまいそう。
チャゼルの映画では、私は「セッション」にはちょっと辛めの評価をしていたけれど、そういう辛めのことを言いたくなる映画というのは噛み応えのある面白い映画なわけで、いろいろ文句つけたくなるけど面白い映画だった。
続く「ラ・ラ・ランド」もいろいろ欠点はあるけど、全体としては楽しい映画、好きな映画だった。
が、今回の「ファースト・マン」は、うーむ。
NASAの宇宙計画ものでは「ライトスタッフ」、「アポロ13」、「ドリーム」と、秀作があっただけに、「ファースト・マン」のなんとなく面白くなさが目立ってしまう。
そもそも、この4作を比べてみると、「ライトスタッフ」のマーキュリー計画の7人の宇宙飛行士とチャック・イエーガーや、「アポロ13」の登場人物は、それなりに有名な人たちなのだろうけれど、ニール・アムストロングほど有名ではないだろう。「ドリーム」に至っては、マーキュリー計画を陰で支えた黒人女性数学者たちの話ということで、こちらは知られざる功労者たちの物語が面白い。
つまり、それほど有名じゃないし、出来事も波瀾万丈だし、いろいろな差別と闘っていたりするし、また、1人が主役ではない群像劇なのもよかったのだと思う。
が、「ファースト・マン」は人類史上初めて月面に立ったアポロ11号のアームストロング船長1人に話をしぼっている。しかも、この話はあまりに有名というか、私も中学時代にテレビで生中継を見たが、とにかく有名すぎる。
おまけにアームストロングが品行方正な好人物で、よき妻と子供たちに恵まれ、幼い娘を病で失ったとか、同僚を事故で失ったとかいった悲劇はあるものの、波瀾万丈の人生とはちょっと違う。人物像も破天荒とかいろいろあったというわけでもない。だから、もともと映画の主人公に向かない人物だったのではないか、それでこれまで映画化がなかったのでは?と思わせる。
月面に星条旗を立てるシーンがないのでアメリカでは反発を食らい、それでヒットしなかったと言われているが、それだけじゃないだろう。(旗が立っているシーンはあるし、映画の冒頭では子供が星条旗を掲げるシーンがある。もちろん、地球上で。)
映画がアポロ11号の偉業をアメリカだけのものではなく、全世界の人類のものとして描いているのは明らかで、でも、アメリカが全世界を代表してやったんだから何もケチつけるものでもないのだが、このような偉業を描くことのむずかしさも感じる。黒人たちは飢えているのに白人は月へ行く、という批判が起こるシーンもある。でもそのあたりがどうも、こういう問題もありました、ていう程度でしかない。
で、結局、アームストロングが月面に降りたとき、彼は家族のこと、そして亡くなった娘のことを思い出して涙を浮かべるという、やっぱり家族が一番、な結論になっている。
この辺の家族の使い方がどうにも安易に見える。アメリカ万歳のかわりに家族万歳。
映画の冒頭の成層圏に向かうアームストロングのシーンと、中ほどの月面着陸の訓練でパラシュートで脱出するシーンが「ライトスタッフ」へのオマージュのようになっているが、「ライトスタッフ」がどれだけしっかりとしたコンセプトに立って作られていたかを再確認する結果になった。「ファースト・マン」にはそういう土台がないのである。