2023年10月11日水曜日

「福田村事件」@柏の葉

 先週末からMOVIX柏の葉で「福田村事件」が始まって、わりと大きいスクリーンで1日3回もやってるけど、お客さんはあまり入っていないみたい。

この映画、お客さんが高齢者が多いので、朝の回か昼の回が入りがよい、最近はお昼ごろが入りがよくて、この時間帯1回にしているところも増えている。

柏の葉はお昼ごろと夕方とレイトの3回なので、お昼ごろはまだいいけど、夕方とレイトはきびしそうだ。

柏の葉は1週目はあまり入りそうにない映画でもある程度の大きいスクリーンを当ててくれるのだけど、それでも、もっと入ると予想したのではないか。ただ、近隣ではUC松戸と柏のキネ旬シアターが9月1日からやっていて、パンフレット完売するほどの盛況だったので、見る人はもう見てしまった感じかもしれない。

場所的には田中村、そして福田村にも近い柏の葉であるのだが。

そんなわけで、今週末からは小さいスクリーンで1日1回(お昼ごろ)になってしまうので、大きいスクリーンでもう一度見ておくか、と思って夕方に行ったら、なんと、おひとり様。と思ったら、予告編のときにもう1人来て、貸切は免れた。


この映画、「好き」と言うとちょっと語弊があるのだが、今年見た中ではたぶん最も気に入っている映画。内容もさることながら、見るたびに発見があり、なるほど、と納得する。

1回目はとにかく登場人物が多いので、全部を把握できないまま終わってしまったが、2回目ではほとんど把握できたと思った。が、今回3回目を見て、さらにわかったことがある。

たとえば、最初に殺人を犯してしまうある人物は、一見、端役に近い存在に見えて、実は最初から画面中央にいたのだ。純朴で、あまりものごとをよく考えていないようなその人物が、しだいに心に闇を抱えていくあたりもきちんと描かれている。

水道橋博士演じる在郷軍人の、軍服姿でない農民の姿が最初の方に出てくるが、家が裕福で上の学校へ行ける同級生への嫉妬なんかも、それは最初から気づいていたことではあるが、何度も見るとさらにその細かい描写がわかる。

最初に殺人を犯す人物も、この在郷軍人も、兵役中に妻に不倫された男も、インテリの対極にいる人物で、社会的には弱者、あるいは弱者であった人たちであること、この辺が理解できない人の意見が散見するのが気になる。

一方、村の2人のインテリ、村長と元教師だが、元教師が朝鮮で虐殺に加担させられ、インテリの無力に打ちひしがれているのに対し、まだそういう経験をしていない村長は理想や希望を持っていて、東京では自由教育をしている、などと言って元教師を教職に戻そうとするのだが、彼もまた、虐殺の現場に遭遇することで元教師と同じ立場になる。

助けを求めた男が目の前で殺されるのを、彼は見るのだから。

この映画はインテリの無力を描くと同時に、インテリでない純朴な人々が加害者になってしまうことを描いていて、ある意味、人を類型化しているともいえる。それは女性と男性の描写の違いにも顕著で、この映画の女性の描写について批判があるのもうなずける。

例の濡れ場の描写に端的に表れているように、この映画は昭和の時代の手法で作られていると言っていいだろう。昭和の時代、西暦で言うと1980年代までだが、この時代には不倫は必ずしも悪いことではなく、むしろ女性の不倫は社会的に虐げられてきた女性の反抗のように描かれていた。この映画でも女性の不倫は社会への反逆としてとらえないと理解できないだろう。

欧米映画でもこの時代までは女性の不倫をそのように描いていたが、その後、欧米では不倫そのものを悪とみなすようになり、以前のように不倫を描くのがむずかしくなる。アーサー王伝説の映画でも、有名な王妃と騎士の不倫を描かなくなる。

これ以外にも人物描写に昭和の時代、1980年代までの手法が見られる。このあたり、現代の目で見ると古いと感じられたり、ポリコレ的に問題があると見られてもしかたないと思うが、その一方で、そうした手法だからこそできる力強い表現があるということを、はからずも思い知らされるのだ。

この映画の観客が高齢者が多い、若い人があまり見ない、ということも、その辺の手法と関係しているのかもしれない。

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