2022年8月20日土曜日

「ストーリー・オブ・マイ・ワイフ」(ネタバレ大有り)

 レア・セドゥ主演の「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」を見に行った。

新海誠の新作がいよいよ秋に公開。




ハンガリーの作家ミラン・フストの小説「私の妻の物語」を同じくハンガリーの監督イルディコー・イニェディが映画化した作品。

タイトルに「私」が入っているということはこれは一人称なわけで、原作は主人公のヤコブ船長の一人称で書かれていると思われる。

映画もヤコブの視点で語られていて、これがミソ。

貨物船の船長をしているヤコブは船のコックから結婚するといいぞと言われ、友人とカフェにいるときに、これから最初に入って来た女性と結婚する、と冗談で言う。そして入って来た女性リジーにいきなりプロポーズすると、驚いたことにリジーはあっさりとOK。2人は結婚するが、船長のヤコブは仕事で何か月も陸を離れ、その間、妻が不倫をしていると疑い始める。

ヤコブは結婚のいきさつから、リジーは自分を愛していないのではないかと思っていて、その上、リジーはデダンという高等遊民みたいな男とつきあっている。

ヤコブの友人も麻薬の取引をしているようで、このデダンも怪しげな感じではあるが、デダンについてはあまり説明がない。

ヤコブは初めて船長をした豪華客船を海難事故から救って英雄になり、救難隊にも推薦される。相変わらず妻の不倫が気になっているが、自分も若い娘と浮気したりしている。

妻の浮気が気になって陸での勤務にするが収入が減る。それでも小遣いを要求するリジーについにキレてしまい、その後、リジーがヤコブの株券を盗んでデダンと逃亡しようとしたところを捕まえて、ついに離婚。

そして7年後、意外な結末が、というお話。

ファッションや車の形から1920年代だろうと思って見ていたが、あとで公式サイトを見ると、1920年のようだ。原作ではヤコブはオランダ人、リジーはフランス人という設定らしく、配役もそうなっている。ヤコブのハイス・ナバーはマッツ・ミケルセンと雰囲気が似ている。対するレア・セドゥは男を翻弄するファム・ファタールにぴったり。

原作は監督の若い頃からの愛読書とのことだが、もともと古い小説で時代設定も古いから、物語は必然的に古く、クラシックな魅力はあるが、3時間は長すぎるし、ロッテントマトなどでの低評価もわかるが、私には好みの世界なので楽しめた。

副題に「ヤコブ船長の7つの教訓」みたいなのがついていて、7つの章に分かれるような描き方になっている。大きな数字がまず出て、それから章題が出るが、これは教訓にはなっていない。また、各章の教訓もあまりはっきりしない。この章分けの意味がいまいち不明だが、原作に従っているのだろうか?

妻の不倫を疑う男性の一人称、ということは、妻の心理や実際のところはまったくわからないわけで、それで最後に意外な結末が来る。

以下ネタバレ。

リジーと離婚して7年後、ヤコブは彼女の姿を見て、彼女を知る女性に電話する。すると、女性は、リジーは6年前に死んだ、あなたのところに霊が現れるとは、彼女はあなたを愛していたのね、と言う。

それを聞いてヤコブがどう思ったのかははっきりとは描かず、映画は終わる。

この前見た「わたしは最悪。」に似た結末だった。

「わたしは最悪。」は以前の記事で書いたように、邦題は一人称だが、原題はむしろ三人称的で、客観的に描かれている。そして、ラスト、元彼が女性と赤ん坊と一緒にいるところを見た主人公が何を思ったかはいっさい知らせずに映画は終わる。

「ストーリー・オブ・マイ・ワイフ」も、妻が離婚して1年後には死んでいたこと、彼女は自分を愛していたと告げられるが、それについて何を感じたかははっきりさせずに終わる。

最初に書いたように、「マイ・ワイフ」はタイトルも描写も一人称で、ヤコブの視点でしか見られていない。リジーの不倫は誤解かもしれないし、私立探偵を雇うと、奥様は不倫していないと言われる。しかし、株券を盗んで男と逃げようとしていたのは事実のようだし(これもヤコブの視点で、実際はなにか訳があったのかもしれないが)、男を翻弄するリジーの態度にヤコブがしだいに追い詰められていくのもわかる。もともとあんなふうにして結婚したのだから、愛がなかったのだ、と思ってもしかたない。

こんなふうに、すべてヤコブの視点なのでリジーの気持ちやほんとうのところはまったくわからないという、小説らしい手法の映画だ。ラスト、リジーはヤコブを愛していたという可能性を示されても、それで誤解が解けるとは限らない。あとは見た人が考えてください、というオープンエンドで、「わたしは最悪。」とも共通する。

面白いのは、女性が主役の「わたしは最悪。」の監督は男性で、男性視点の「マイ・ワイフ」の監督は女性なことだ。

「わたしは最悪。」の方がいろいろな意味でランクが上の作品ではあるが、「マイ・ワイフ」もそうした視点で考えてみると面白い。

英語のタイトルは原作の英訳のタイトルだけれど、映画のせりふを英語中心にしたのは、当時の船の世界では英語が共通語だったかららしい。今、「オルメイヤーの阿房宮」を読んでいるのだけれど、ポーランド出身の原作者コンラッドは船員時代に英語を覚えたという。


「ストーリー・オブ・マイ・ワイフ」は金曜から午前中1回になってしまうので、木曜日にあわてて見に行ったが、その翌日、ついに手に入れました、日本版ブルーレイ。

左が国内版。右が以前に安く買った輸入盤。予告編すら入ってない本編のみで、紙のカバーがついている。ボブがサンタの帽子をかぶっていて、顔が国内版とは微妙に違っていて、そして、ジェームズの後ろにしっぽが見える。このオリジナルのビジュアルがとても気に入っているのだけど、日本ではジャパンプレミアでのプレゼントのポストカードに使われたきり。


国内版はポストカード(初回限定)とボブのメモリーブック付き。メモリーブックはボブの写真がいっぱい。開いてすぐの状態の写真なので、ディスクがさかさま。



リバーシブル・ジャケット仕様なので、裏側が見えます。


国内版はDVDはインタビューなどの特典映像が入っていないのでブルーレイにしたけれど、ディスクの絵柄やポストカードはDVDの方がよかったなあ。

SNSに上がっていた画像をお借りします。


特典映像61分もあるので、あとでゆっくり見ます。