2023年5月9日火曜日

GWの読書

 GW前半にようやくバルザックの「幻滅」を読み終え、次に読んだのがこれ。


「地上より永遠に」の原作。1987年に翻訳が出ていたとは知らなかった。同じ原作者の「シン・レッド・ライン」は映画公開に合わせて翻訳が出たのは知っていたが。

最初は翻訳があるとは知らず、原書で読もうかと思ったけれど、ペーパーバックで1000ページ近くあったので、これはちと無理と思い、図書館検索にかけてみたら、この翻訳があちこちの図書館にあった。

しかし、私が図書カード持ってる図書館にはない。

比較的近くの自治体のいくつかにあるのだが、どこも図書カードが作れない。今住んでいる市と隣接した自治体でないとだめなのだ。

で、在庫のある首都圏の図書館でカードを作れそうなのは2つの自治体。1つは住所に関係なくカードが作れるが、ほとんど行かない場所。もう1つは非常勤講師してる大学のある市なので、在勤でカードを作れるし、週に一度は行く。

というわけで、カードを作り、GW前に借りてきたのだった。

最初から文庫本で出る貴重な翻訳とかいっぱいあるのだけど、文庫本は図書館は処分してしまうことが多い。なんとかならないものだろうか。

というわけで、全集2巻で合計900ページの「幻滅」に続き、文庫本4冊で合計1600ページの「地上より永遠に」というハードな読書であった。

どちらも読みごたえ抜群で、これぞ小説という、映画とかでは絶対無理な濃密な描写を堪能した。

「地上より永遠に」は真珠湾攻撃直前のハワイが舞台で、当時の兵士の会話がたくさん出てくるが、当時を反映して差別用語や差別的な物言いが多い。主要人物も差別や偏見を持っている。しかし、作者ジェイムズ・ジョーンズはこうした差別を悪いものとしてしっかりとらえた上で、差別や偏見を持つ人々の心理や背景を描いている。人種差別、女性差別、同性愛差別が出てくるが、同性愛についても、ゲイの人々は最初からゲイであるとか、力のあるものが年下の男に同性愛を強いる性的虐待を同性愛と思って憎むとか、今の目で見てもまったく古びていない。

登場人物も映画よりもずっと詳しく描かれていて、悪役の上官も実はその上の上官から圧力をかけられていじめをしているとか、仲間を虐待して殺した営倉係を殺しても解決にはならないといったことが詳しく書かれている。後半に登場する哲学者のような人物も興味深い(映画には登場しない)。

家が貧しくて大学へ行けなかったジョーンズだが、文学などの知識は豊富で、それが主人公プルーイットにも反映している。学歴がないが教養のある兵士たちが何人もいる。

というわけで、映画が原作と比べられて低く見られるのはやむを得ないが、それでも、あの長大な原作をよくまとめたと感心する。原作のエッセンスは失われていない。アカデミー賞作品賞、脚色賞などの受賞は大いに納得できる。