2013年3月20日水曜日

きっと、うまくいく

インドですが、実は、これからインド映画が続々と公開されます。
インドといえばIT長者とレイプ、じゃなくて、本来は、IT長者と映画、であるはずなのですが。
しかし、昨年公開のインド映画「ロボット」にもヒロインが列車の中で集団暴行されそうになるシーンがありました(しかも、一味の男が携帯で映像を撮影しようとしていて、妙にリアル)。そして、今日紹介する「きっと、うまくいく」にも、ヒンディー語が苦手な学生がヒンディー語に翻訳してもらったスピーチの原稿を、主人公が改ざん、「奇跡」を全部「強姦」にしてしまい、学生は「奇跡を起こす」といったつもりがみんな「強姦を起こす」になってしまうというシーンがあります。まあ、そのくらい、レイプ事件がひんぱんということが映画にも反映されてしまっているのですね。
さて、この「きっと、うまくいく」という映画、すでにハリウッドとイタリアでリメイクが決定、という、インド映画史上最大のヒット作。舞台はインドの一流工科大学。そこに頭はいいが型破りな学生が入学してきて、2人の学生とつるんで学長に逆らったり、暗記ばかりの詰め込み教育を批判したりと、やりたい放題をするという話です(原題は3 Idiots、文字通り、三馬鹿大将)。
主人公のランチョーは試験ではトップの成績が取れる優秀な学生で、家も大金持ちらしいのですが、発想が非常にユニークで、学んだことを幅広く応用できる天才です。このランチョーとルームメイトになる2人の学生のうち、ファルハーンは中流家庭の出身、ラージューは貧困家庭の出身で、父は病に倒れ、姉は持参金がないので結婚できない状態。この2人はランチョーとは違い、成績は悪く、試験もぎりぎりビリとビリから2番目で合格。特にファルハーンは動物写真家になりたいのに、親はエンジニアになれといってきかない。
インドでは男はエンジニア、女は医師になるのが一番のようで、学長の娘ピアも医師をめざしています。また、学長の息子はエンジニアめざしてこの工科大学を受験するも3回不合格になったあと自殺、実は彼は本当は文学部に行きたかったのだということがあとでわかります。
こんな具合に、インドはエンジニアになって成功するというのが出世コースのようで、大学もひたすら暗記の詰め込み教育、点数主義、と、日本でも批判されているのと同じことがあるようです。
大学には悪役の学生もいて、彼は試験の成績は2番。ランチョーが1番なので2番にしかなれず、ランチョーをうらんでいますが、卒業後はグローバルエリートとして活躍しているらしい。
一方、ランチョーは卒業後、行方不明になり、やがて、山奥の小学校の先生をしていることがわかります(しかも、金持ちの息子ではなかった)。グローバルエリートになった悪役はざまあみろ、小学校の先生なんて負け犬、というのですが、実は、というところで、最後の最後に、一番最初に出てきた伏線が生きるという、3時間近い映画にもかかわらず、伏線がしっかり効いてくるなかなかのシナリオです。
物語は、すでに社会に出ているファルハーンとラージューが、行方不明のランチョーを探す枠物語と、3人の大学時代の回想から成り立っています。インドの映画は長いけど、1本で2本分の話が入っているようなゴージャスさなのですが、この映画も前半と後半で、つながってはいるけど、2本分の映画を見たような満腹感があります。
邦題の「きっと、うまくいく」はランチョーの決まり文句「アーリズヴェール」=英語の「オール・イズ・ウェル」(うまくいく)をなまって発音した言葉から来ていますが、文字通り「うまくいく」ストーリー。「泣き」も「笑い」もベタですが、それでも3時間近く、あきることなく楽しめてしまいます。
最後に、優秀な人はほっておいても成功する、というような言葉が出てきますが、確かにそのとおりなのですが、大部分の人はランチョーのような優秀な人ではないわけで、その大部分の人をどうするかが本当は問題なのですけどね。
また、この映画は、点数主義は必ずしも批判されているわけではないと思います。主人公たちも試験は正々堂々と合格点を取ろうと必死に勉強します。アジアの国は日本をはじめ、大学入学が点数主義であるところが多く、欧米は面接重視だといってそれを批判する人もいますが、最近の東大の推薦入試のニュースに批判が続出したように、日本のようなコネ社会では、点数主義の方が個人のためであるのではないかと私は思います。アジアの国々が点数主義なのも、そうした文化的背景があるからではないかと思います。